Dear Lamb

『やあ。
この手紙も、もう何通目になるかな。
だが、ここで一つ、書いておかなければならない事がある。
この手紙を君が読む頃には、君はもう死』

そこまで読んだ瞬間、俺は反射的に郵便受けから飛びすさり、地面に伏せた。直後、
ドゴオォン!!
と郵便受けが爆発する。激しい炎と熱風が、俺の背中を舐めた。
暫くして、炎と熱風はおさまる。まだ火がくすぶっている所もあったが、立ち上がって踏み消した。

「……ん」

ふと、見慣れないものに気づく。耐火用の小さな袋。拾い上げて中を見ると、封筒が入っていた。
またあの男か。

『……にはしなかったようだね』

二通目の手紙は、そう始まっていた。
……こいつ、手紙が俺の家に届き、俺が郵便受けから手紙を出し、どこまで目を通してから危険を察知して回避するかまで全てお見通しだったって事か。

『君とは長い付き合いになるが、そろそろ死んでくれてもいいのではないかね。やれやれ、しぶとい男だ』

……全く、狂ってやがる。この手紙の主も、俺をここに寄越した男も。まあ、あの男のおかげで、まとまった金は手に入っているわけだが。

『時に君は、ネットサーフィンは嗜む方だったかね?』

──嫌な予感、家の敷地内からダッシュで抜け出す。と同時に目の前からダンプが、
一切ブレーキなんかかけずに、俺につっこんできた。
耳をつんざく衝撃音、破壊される音、──無音。
……歩道に出て右に折れていなかったら大変な目に合っていた、と俺はへたりこみつつも考え

「────っ!」

微かな風切り音。
とっさに身をひねり、歩道を転がる。
ガガッ、カランカランカラン──降ってきた物がアスファルトに衝突して、跳ねる。
長さ3mはあろうかという、鉄柱。あれが身体に突き刺さっていたかと思うと、寒気がする。
カランカランカラカラカカカカ……と動きを止めた鉄柱を見ていると、封筒が貼り付けられているのが目に入った。
関わりたくもないが、読まなければ負け──なんだそうだ。普通に生きててもこんな目に合うのに、『負け』たらどうなる事やら考えたくもない。

『私は最近動画投稿サイトにはまっているんだがね、まあ君もやってみるといい』

いらん。
ダンプが突っ込んで、大破した我が家を見る。せっかく人の少ない、山間の小さな町に家を借りられたのに。
今度はどこに住むべきか、そんな事を考えながらふらふらしていたら──来た。嫌な予感だ。
いつの間にか林の方まで来ていたらしい。背筋を襲う悪寒に、思わず駆け出した。一呼吸遅れて、ドォォン……と何かが倒れる音。ちらりと後ろを振り向くと、道路の脇に立ち並ぶ木、その一本が倒れていた。
いや──一本じゃない!?
俺は道を走り続ける。道は坂道になり、しかも登り坂で相当しんどい。だが休めないのは、道路脇の木が次々と倒れてくるからだ。
──ようやく足を止められた時には、山の中腹辺りにさしかかっていた。
息を切らしながら、道路に座り込む。ふと周囲を見回すと、木の一本に例の封筒があるのを見つけてしまった。

『おめでとう、よく逃げ切ったね。次が最後の試練だよ』

そこで手紙は終わっていた。なんだ、まだ何かあるのか。だが、一応最後と言われると、少しほっとする。
それにしても、最後の試練とはなんなんだろう。一つため息をついて、俺は空を見上げた。今日は晴天で、どこまでも広く青い──
──何かの音が、聞こえた気がした。
その音は小さくしかし次第に大きくなって、ざらざらざざざざだだだだどどどど─────────
え   これ    土砂くz


───────────。


「……はてさて、しぶとい君の命運も、どうやら尽きたようだね」

土砂崩れが起きた現場を眺めながら、一人の男が呟いた。
彼こそは、手紙の差し出し人であり刺客の差し向け人、受取人であった青年を幾度となく亡き者にしようとした男である。

「しかし流石の君も、自然災害は予知できなかったかね」
「──まさか」

皮肉気な台詞と共に、男の後頭部に何かがつきつけられる。ゆっくりと身をよじると、背後には死んだはずの青年が立っていた。伸ばされた片腕から、つきつけられているのは拳銃かと察知する。

「俺は、危機察知能力がある。自然災害もわかる。だが奴は、」

青年は、土砂崩れの跡を見やる。

「殺意察知能力しか持っていなかった。それだけだ」
「なるほど──身代わりを雇っていたのか」
「まあな。苦労したぜ、俺と似せるのは」

軽く口角を上げて、青年は引き金に指をかけた。その動作は見えなかったものの、男は死期を察して肩をすくめる。

「全く、勝利したからといって油断するものではないね」
「そうだな。まあ、来世では上手くやんな」

短いやり取りの後、青年は引き金に力を込めた。




──銃声。


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