ある日の中学生達──parallel world

──────────


「……どうよ」
 あたしが渡された原稿を読み終えたのを見て、彼女──深塔澪は、そう訊いてきた。
「どうって……よくこんな手の込んだもの書けたよね」
 あたしはため息と共に、字で埋め尽くされた原稿をぱさりと机に置く。
「ま、書けたっていうか、まだ最後の素晴らしいオチは書いてないんだけど。でも、とりあえずそこまで恵に読んでほしかったから」
 事も無げな顔でいう澪に、あたしこと新居橋恵は素晴らしいオチがあるならそれ書いてから読ませてよ、とか、ていうかまだオチがあったのこれ、とか思いつつ、彼女の摩訶不思議な小説でごちゃごちゃになった頭の中を整理する為に、言葉に出してもう一度その小説の内容を追っていった。
「まず中学生のあたしたちの会話があって、それが実は高校生の澪が書いた小説で、それについて高校生のあたしと話してたんだよね。そこまでは理解できた。だけど次の章で、その高校生のあたしたちは大学生の澪が発掘した日記で、別の大学に行ってるあたしにメールで読ませていろいろ話してたって所でこんがらがってきて、最終的にこの大学生のあたしたちすらも今の中学生のあんたが書いたんだって思った時には、完全にわけわかんなくなった。……ていうか疲れた」
 げっそりした表情を浮かべたあたしを見て、澪はにんまりと笑う。
「うん、その疲れた様子が見たかったんだよ」
 ……サディストですかあんたは。
 というか、読者を疲れさせてどうする。
 ──因みに先んじて言っておくと、今のあたしたちは高校生でも大学生でもなく、中学生だ。また、この原稿では最初の章に中学生のあたしたちが出てくるけど、これはフィクションでありあたしたちの間にこんな会話があった事は、ない。
「まあ、それはともかくとして。もうちょっとこれについての詳しい感想とかほしいんだけど」
 依然として笑みは浮かべているものの、今度は真面目な口調で彼女は言った。その言葉に、あたしはすぐにいくつかの論点を考えつく。だいたいツッコミ所満載なのだ、この作品は。
「まず一つ目」
あたしは人差し指を伸ばした。そしてその人差し指を、つい、と原稿に向ける。
「この原稿の中ではちょっとしか触れられてないけどさ。なんであたしを登場させてんの? しかも語り手で。別に禁止はしないけどさ、書く前に一言かけてよ。ていうか自分自身も創作に登場させたりしないよね、普通。あんたの自叙伝ならともかく、これフィクションじゃない。キャラクター作れば?」
 あたしの半分苦情が入った提案に、澪はあっけらかんと答えた。
「だって簡単だし。軽い短編に出すくらいなら、十分キャラたってると思うよ恵は」
 ……そんな事言われても嬉しくない。
 まだ高校生の章のように、そのうち適当な名前に書き直すー、と弁解してくれた方が可愛げがあるというものだ。よっぽどファンタジックな行動ならともかく、なんで弁解程度を作中ではできて現実ではできないのか。
 未だに渋い表情が残るあたしを見て、澪が慌てたようにつけ足す。
「それにさぁ、文章読んでて自分ってわかるようなキャラを、まるで別人のように書かれてたらそっちの方が嫌じゃない?」
「……うーん……」
 言われてみると、確かにそうかもしれない。だが、まだ反論の余地は残るのだ。
「だったらさぁ、せめて名前をそのまま書くんじゃなくて、澪の方は『M』とかイニシャルでぼかすとか……」
「まあ、よくある手だね」
 うんうんと澪は頷く。だが、すぐにこう提言してきた。
「あれはあれで別にいいんだけどさ……あたしの文章に使ったら、ちょっと雰囲気が固くならない?」
「……そうかなぁ……」
「そうだよ。それに、恵も結局はイニシャル『M』であたしと被っちゃってるわけだし、実際はあたしが文章を書いてるのに自分を『M』って書くのもなんか変な感じがするし……それこそほんと、高校生の章みたいに部誌とかに載せるってわけじゃないんだし」
「だったら澪はともかく、せめて語り手のあたしの方はなんとか会話に名前出さないとか……」
 そう小さく抵抗はしたものの、最終的にあたしは諦めてこの議題を流す事にした。あたし自身、めんどくさくなってまあいいやと思い始めてきたからだ。
「じゃ、二つめ」
 あたしは二本の指を立てた。

[ 9/23 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -