ある日の高校生達

──────────

「──で?」
 唐突に問われ、あたしは目を丸くした。そして彼女に訊き返す。
「で、って?」
「だから、その話の感想」
 彼女──深塔澪は、今あたしが持っている彼女の携帯を指さした。
「ああ、はいはい」
 理解したあたしこと新居橋恵は頷いて、さて何を言おうかと思案を巡らせた。
 澪が言っているのは、彼女の携帯のメールボックスに保存してある、澪の書いた小説の事だ。内容は中学生のあたしたちが、会話をしているもの。この小説にも書いてある通り、澪は自分で小説を書いてはあたしに批評を求めてくる。……欲を言えば、どうせならこの小説の中の澪みたいに、原稿用紙に原稿を書いてきてほしかった。その方が広い範囲を一目で見渡せるし、目も疲れないからだ。
 まあそれはともかく、今回の小説はただ戯れで書いたわけではないらしい。澪が所属している文芸部の部誌に載せる為の原稿らしいので、今の澪はちょっと緊張した面持ちをしていた。
「……そうだね、まずなんで部誌に載せる為の原稿にあたしとあんたが実名で載ってるのかについて聞かせてくれる?」
 若干冷えた目つきのあたしに、澪は慌てたように説明する。
「載せる時はちゃんと変えるよ。あたしもそこまで非常識じゃないって」
「……ま、それならいいけどね。これ中学生設定だし」
 呟いて、あたしは再び携帯の保存メールに目を落とした。物語の内容は、あたしと澪が、澪の書いたっていう小説について会話しているというもの。実名云々というのはその事だ。
 そう、今のあたしたちは中学生ではない。れっきとした高校二年生だ。澪が文芸部に所属しているのと同様、あたしは美術部に所属している。学校は違うんだけどね。
「……とりあえず、小説の掴みとしてはまあまあなんじゃないの? 作の中で、作中作をやるって宣言してるのも面白いし。ただね、」
 再び声のトーンが低くなったあたしに、澪がビクリとする。
「これ、まだ掴みしか書けてないよね」
 おそるおそる頷く澪。
「明日部誌印刷なんだよね。原稿締め切りじゃなくて」
 がくがくと頷く澪。
「しかもあんた、部長だよね。文芸部の」
 最早頷く事もできず、撃沈して机につっぷしている澪。
「更に言うと、今試験中だよね。明日どうすんの?英語と世界史」
「……試験投げて徹夜で原稿書きます……」
 倒れたまま、くぐもった声で答える澪。
 試験よりも文芸部を取った彼女を、自業自得と呆れるか称賛に値するものと褒めるか、少しの間、あたしは頭を悩ませたのだった。

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