ある日の中学生達

 パサリ、という乾いた音がして、数枚の原稿用紙が机に置かれた。置いたのは他の誰でもない、このあたしこと新居橋恵(ニイハシメグミ)だ。元々は白かっただろう原稿用紙は、字で埋めつくされて真っ黒になっている。ただ、真っ黒になるほどまでに原稿用紙に字を書きつらねていったのはあたしではなく、誰あろう原稿用紙の所有者だった。
「……どーだった?」
 あたしが原稿用紙を置いた音を耳にして、原稿用紙の所有者である所の彼女──深塔澪(シントウ ミオ)は、それまで読んでいた本を閉じて机に置き、あたしと視線を合わせてそう言った。
「うん、まあまあ面白いんじゃないの?……オチだけしかない事を除けばね」
 あたしのこの感想は、原稿用紙に書かれている文章についてだ。
 澪は将来、小説作家になるのが夢で、たまにちょこちょこと原稿用紙に小説を書いている。今回の原稿用紙もまた然りで、あたしはその小説についての批評を頼まれていたのだった。
 それではそんな相談を持ちかけられるあたしも作家の端くれなのかというと、実はそういうわけでは決してなく、むしろ絵を描く事の方が得意だ。澪とは小学生の頃からの親友で、中学生となった今でもこうやってお互いに相談を持ちかけたりする。
 で、さっきの話に戻るとすると、早い話が今回澪の読ませてくれた小説は、オチの部分しか書いていなかったのだ。まあオチだけと言っても、割と長めの話だったのだが。
 そのオチしか書いていなかった理由を、澪が説明する。
「作中作、やろうと思ってさ。ちょっと特殊な奴だから、オチから書いて前の章を後付けしていった方が確実なんだ」
 ……作中作?
「何、それ」
 あたしが訊くと、ああ、恵知らなかったんだと、澪は頷いて説明を始めた。
「物語の中に、更に物語を作ってる話の事だよ。例えばAさんという人がいて、そのAさんが本を読んでいるとするでしょ?でも、実はそのAさんが本を読んでいるというのは、Bさんが読んでいる本の中の出来事だった、って話。それが更に、そのBさんが本を読んでいたっていうのも実はCさんが読んでいた本の中の出来事で、そのCさんの話も実はDさんが読んでる本の……って、どんどん続いていく話。……わかった?」
「……び、微妙には……」
 ややこしすぎやしないかな、その話。
 自分の解説があまり伝わらなかった事に澪はちょっと残念そうな顔をして、今度作中作を使った面白い小説、貸すから読んでみるといいよーと言った。
「まあ、とりあえずそういう話を書こうと思ってるんだけど。で、何かツッコんだ感想とか、ある?」
「……んー、ピンポイントで言うなら、そうだね……うん、この『──果たして現実は、一体全体どれでしょうか?』って台詞が面白かった。物語の鍵にもなってるみたいだしね」
 最後が仮定形なのは、勿論物語がオチしか書かれていないからだ。あたしの感想を聞いて澪は、そっかぁありがと、と礼を述べて原稿用紙を元入れていたクリアファイルに直した。
「じゃ、またオチ以前の物語書いたら読んで感想くれる?」
「いいよー」
 答えて、あたしは一つこの小説について質問があった事を思い出した。
「あ、そういえば澪」
「何?」
 原稿の一ヵ所を指さして、あたしは澪に問う。
「──この特殊な作中作って、どう特殊なの?」

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