※現代パロ
※三成とちび大谷(紀之介)





 紀之介は漢数字をひとつふたつ覚えたばかりの幼稚園児ながら『おとなの事情』というものが大抵お金と義理で出来ていることをよく知っている。直接その被害を被るのはこどもだというのに、おとなは誰も『こどもの事情』を聞いてくれはしない。普通のこどもなら泣き喚いて地団駄を踏むところだが、紀之介は年の割に少し達観した節のある賢いこどもであったから、黙って目の前にある現実をじっと見つめた。
 すらりと長い足に、少し曲がった背中が纏う高価そうな黒いスーツ。栄養状態が悪いのか生活習慣が乱れているのか、肌の色はどこを見ても青白く不健康そうだ。年齢はとても若い、だがあまりたくさんのおとなを見比べたことのない紀之介には具体的な数字がさっぱり掴めない。こちらを見下ろす鋭い眼と目が合って、思わず一歩身を引いた。この男は『おとなの事情』により今日から紀之介の家族となる人である。

「何と、呼べばいい」

 少し悩んで紀之介が言ったのは、可愛げのない平淡な言葉であった。もとより可愛がられようとは思っていないし、向こうが愛想もなく睨んできているものだから、こちらも同じように返したまで。しかし男はフンと面白そうに鼻を鳴らして「三成でいい」と短く言った。

「みつなり?」

 名前呼びでいいのかと問い返すと、男――三成は膝を下りしゃがみこんで、紀之介と目線を合わせてゆっくり説明をした。

「父というのはこちらも抵抗があるし、兄というのも呼びづらいだろう。それなら名前の方がと思ったのだが、紀之介の意見は?」

 なるほど三成も考えた末の名前呼びだったらしい。それにおとなの癖にこどもの意見を聞くとは奇妙なおとなである。紀之介は首を横に振った。それから三成の顔を真っ直ぐに見据えた。尖ったナイフみたいな顔立ちである。

「三成」

 確認するようにひとつ呼べば、三成は口端だけで小さく笑った。そして紀之介の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。あまり人に触れ慣れていない手だと思った。もう少し強くても痛くはないのに、これでは髪をいたずらに乱しているのと同じだ。だが、悪い気はしない。紀之介は黙って、その大きな手の下から三成を見上げていた。


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