石田三成が失われた片割れを自らの手で造っているのを最初に発見したのはあたしだった。まず我が目を疑い、次に興味を持った。
自衛技術開発施設にとって戦闘用アンドロイドはただの道具であり、それ以上でもそれ以下でもない。愛着がないわけではないが、喋ろうが笑おうがプログラムのおかげということを誰よりもわかっている。国を守るために使えればそれでいい。
そんな綿密な仕事内容に反したいい加減さのため、戦闘で充分に能力を発揮するアンドロイドは、どんなエラーがあろうと大抵は廃棄処分を免れてきた。つまり石田三成は『大谷吉継を造ったこと』については廃棄処分対象にならなかったのである。その極めて人間らしいエラーはむしろ研究対象であった。戦闘用アンドロイドが必死で資料を集め、着々と片割れの体を造ってゆく様を、あたしはモニター越しにずっと見つめていた。もし大谷吉継が完成したら、戦闘用アンドロイドとして採用はできないにしろ、できるだけ石田三成の近くに置いてやろうと思っていた。上層部との決裂は避けられないだろうけれど、普段から異端者扱いをされているあたしには、この施設内で失うものなんて何もない。
しかし石田三成は部外者を、それも外国人技術者をこの施設内に入れてしまった。戦闘用アンドロイドの技術は日本にとって最も漏れてはならない国家機密である。石田三成はその体内を晒し、CPUまで見せた。悪い夢のような展開である。国から石田三成と大谷吉継の廃棄処分、そして外国人技術者の逮捕命令が出たのは、外国人技術者侵入の報告から一時間ほど経ち、その尽力により大谷吉継が目覚めた頃だった。
その時モニターに映っていた光景を、今でも時々夢に見る。微笑みあう二体のアンドロイドの表情、外国人技術者の絶望からくる薄ら笑い、アンドロイド同士の愛に似た行動。そして外国人技術者が二体の生命線である回路を同時にぷつんと切り、ふたつのCPUを金槌で粉々に破壊したこと。
逮捕された外国の技術者がその後どうなったのか、下っ歯のあたしの知るところではない。混沌とした世の中だけれど、日本はまだ温厚な国だ、そう簡単に死刑にはならないだろう。そもそも石田三成は人気の割にエラーまみれの失敗作であったから、国は「問題が起こる前に壊してくれてありがとう」と言いたいに違いない。記憶を消されて強制送還、というのが最も有力か。
外国人技術者が二体のアンドロイドと関わって何を思い、またどういうわけで道を踏み外してしまったのか、あたしには想像もできない。けれどそれを理解できる人間がもしいるのなら、あたし以外にはいないと思う。これは自惚れではなく確信だ。石田三成と直接関わりはしなかったものの、彼の最初から最期の最後までをこの目ですべて見届けたのは、この世であたしただひとりなのだから。
石田三成が廃棄されたその日、あたしはそのプログラムのバックアップデータを私物のUSBにコピーし、こっそりと持ち帰った。