一刻ほど部屋を空けたのが運の尽き。己の部屋の中央で大の字になって眠る男を見下ろし、吉継は溜め息を吐く。

「三成」

 溜め息ついでに男の名前を呼んだが、返ってくるのは寝息ばかり。このところ主君のためにあちらこちらを駆けずり回っていたから、疲れが溜まっているのだろう。いつもの習慣でこの部屋を訪れたものの吉継は不在、待っている間に睡魔に負けて、今朝吉継が片付け損ねていた枕で昼寝開始、という流れか。
 眠るのは悪いことではない。無理をしがちなこの男に対してはむしろ推奨すべきことである。しかも子供のような顔で眠っているものだから、吉継は起こすに起こせなくなった。このまま気が済むまで寝させてやるのもいいだろう。
 しかし問題は自分も眠いことである。病が癇癪を起こしたのか、至る所を断続的に痛ませるものだから、昨晩は全く眠れなかったのだ。久々に部屋の外で上っ面の愛想をしてきて疲れたのもある。だがこのように大の字になって寝られては、己の眠る場所がない。
 吉継は悩んだ末に、三成の腕の届かない少し狭い場所に横になった。見下ろすのより寝息が近く聞こえる。だが枕がないとどうしても頭が痛い。

「のう、三成」

 幾ばくかの希望を持って声を掛けたが、三成に起きる気配はない。我慢するしかあるまいと身を縮める吉継の目に入ったのは、三成の右腕であった。
 手近にあって枕になりそうなものといえばこの右腕しかない。そこに頭を乗せれば、足を伸ばすこともできるだろう。だが腕枕はさすがに抵抗がある。友であるとか男同士であるとかそういう問題ではなく、自尊心の問題なのだ。
 しかし背に腹は変えられぬ。吉継は思い切って手のひらに頭を乗せた。少々薄い枕だが、ないよりはいい。目を閉じれば、三成の寝息が先ほどよりもずっと近く聞こえた。なぜか少し安心して、静かに眠りに落ちる。


 寝返りで手のひら枕が腕枕になり、目を覚ました三成が驚いたのはまた別の話。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -