覚悟(慶+吉)


 必要なのはこの身とこの心、そして相棒の夢吉のみ。足の向く先が目的地、手を叩けば笑顔満つ、さぁこの恋咲かせたく候。ちょいとそこのお嬢さん、一緒にお茶でもしませんか。

「もっと楽しい生き方をすればいいのに」

 歌舞伎者はそんなことを言った。ただの歌舞伎者でない故に無下には出来ぬと相手をしていた吉継は、思わずそのふざけた顔を睨みつけた。

「この我に、楽しく生きよと?」
「そうそう。あんた口上手いし、いい人みたいだし。こんな狭い部屋じゃあ勿体無いね」
「…………」
「そんなに石田三成って男が大事かい?」
「あれは我の唯一の友よ。あれのためならこの短い命など惜しゅうない」
「へぇ。あんた、覚悟できてるんだ。えらいねぇ……」

 覚悟。吉継は鼻で笑った。そんなものはとうの昔に決めてある。己が先に死ぬのも、三成が先に死ぬのも、この戦国の世ではどちらも有り得る。この歌舞伎者とは違うのだ。
 ――本当に?



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