マツムシソウ(現代パロ、三吉三)


 鎖は無数の鉄輪から成る。鉄輪のひとつひとつを熱で溶かして繋いで、やっとその強度と形になる。つまり鉄輪ばかりあっても、繋がっていなければそれは鎖ではないということ。何かを繋ぎ止めておくには無力であるということ。
 恋人が出て行った。恋人と言っても、男である。男で、元はこの世でたったひとりの友達で、唯一無二の存在であった。
 どこへ行ったのか、どうして出て行ってしまったのか、三成には皆目見当がつかない。彼は携帯電話を持っていないから電話もできないし、警察に行くにはふたりの関係は薄すぎた。男女関係ならまだしも、男と男で、血縁もない。どうすることもできない。がらんどうの部屋の中で、三成は膝をついた。安い1DKがとても広い。
 鉄輪はたくさんあったのに、それを組み合わせるきっかけもたくさんあったのに、愚かなるかな、三成はあっさりと逃げられてしまった。繋ぎ止めてもいないくせに、自分からは離れられぬと過信した。離れられてみれば、繋がれていたのはこちらの方だった。
 三成は鉄臭い部屋のテーブルの上にコップを置いた。そこに、帰り道で偶然見つけた紫のマツムシソウを挿す。本当は直接渡そうなんて気障なことを考えていたものだ。蝶は花の蜜を好むものだし、ひょっとしたらこれに誘われて帰ってくるかもしれない、なんて馬鹿なことを考える。不揃いな花びらの形が三成を笑っていた。

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