◇
「どういう仕組みなんですか?」
言葉通り、こぼれそうなくらい目をまん丸にする雅の姿に思わず笑った。
「それは僕にも分からないんだよね。ただ、いくつかのルールは分かってる」
「ルール?」
小首を傾げる雅の手をとった五条がそのまま扉をくぐろうとするが、見えない壁に阻まれる。
空気が波打って、それ以上の侵入を拒んでいた。
ー、やっぱりか。
普段なら自分相手に他者が体験するであろう、そこにあるのに触れられない感覚。
新鮮な体験に軽く愉悦を覚えるが、今は楽しんでいる場合でもない。
“一昨日“と“昨日“の時点で色々試して、ある程度の予測は立てている。
今、彼女を連れた状態で扉に拒否されたということで、仮説が大体確定した。
次はその華奢な手を離した状態で、歩みを進める。
瞬間、消えた空気の壁。
今度はなんの抵抗も受けずに境を越えた五条の姿に、雅がひとつ頷く。
「…そういうことですか。この扉で行き来ができるのは五条さんだけなんですね」
「お、さすが察しがいいね」
「いや、ここまで見せてもらえたら小学生でも分かりますよ」
「雅は普通に受け入れてるけどさ、こういう非現実的な話って一般人が呑み込むのには結構時間かかるよ?」
よっこいせと雅の隣に戻ると、自然な流れで扉を閉めた。
ちらりと時計を確認すると、ぴしりと人差し指をたてる。
「まだ他にもあるのかもしれないけど、今の時点で判明しているルールがもうひとつ」
「なんですか?」
「これ、いつでも使える便利ドアではないみたいなんだよね」
「あ、時間に制限があるってことですね」
「はい、大正解。この2日間の測定でいくと、恐らく夕方の四時から午前四時くらいの間だけ繋がる」
「もうそんなところまで調べたんですか」
「はは、僕天才だから」
純粋な尊敬の眼差しを受けてキメポーズをとってみるが、不意に真剣な表情で向き直った。
「そうそう、ちょっと確認しときたいことがあるんだけど」
「どうぞ」
「雅、今彼氏とかいる?」
「いません。こんな状態で十年近くいたので」
もう喪女ですよ、喪女。
己の隈を撫でながらあははと軽く笑う雅に対して、少し首を傾ける。
「いや、呪霊に憑かれてたからでしょ。雅は充分…、まあそれについてはまた教えてあげる。とりあえず、それなら問題ないね」
「?なにが問題ないんですか」
それが今の状況にどう関係するのか。
きょとりとする彼女に向かって、ひらりと手を挙げた。
「いや、さすがに彼氏持ちだと気まずいかなって。これからしばらく、夜は一緒に過ごすわけだからさ」
2021/03/06