◇
かちゃり。
食後の珈琲を飲みながら、雅は情報処理に追われていた。
彼にお礼をすることで頭がいっぱいの時に投げかけられた絶好のチャンス。
個人的には五条の好物を何よりも聞きたかったのだが、彼のその後の対応により、現状における一般回答を教え込まれた。
あれから盛大に吹き出した五条が色々な説明をしてくれたため、現在進行形で確認中だ。
「…えっと、つまり私の長年の体調不良は呪霊っていうのに取り憑かれていたからで。五条さんはそれを祓える人で。私に憑いていた呪霊を祓ってくれたから身体が軽くなったわけですね?」
「その通り、百点満点!雅は呑み込みが早いね」
「いえ、充分混乱していますよ」
「今の話はそれだけ分かっててもらえれば問題ないよ。それじゃ、次の話題に移ろうか」
雅が目をむくほどの砂糖が溶け込んだ珈琲を一気に流し込んだ五条は、言うなり腰を上げる。
あわせて席を立つと、促されるままに移動した。
着いた先は、五条が現れた例の扉である。
雅からすれば、クローゼットやらベッドやらがある完全なプライベート部屋へのドアだ。
「じゃあまず、雅が開けてみて」
「え?はい、」
さあどうぞ!と合図をされて、首を傾げながらドアノブを捻る。
見慣れた光景に隣を見れば、変わらない笑みとぶつかった。
「はい、閉めてー」
「?はい」
「じゃあ次は僕の番ね」
「え、誰が開けても同じなんじゃ、ー…」
言葉は最後まで続かず、開いた口も塞がらない。
「な、んで…」
そこにあったのは、自分の物など一切ないー…壁も家具も空気も、全てが初見の空間だった。
「僕の部屋を見せるのは雅が初めてだよ」
2021/03/04