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「いやー、ご馳走になっちゃって悪いね。夕飯まだだったから助かったよ」
「いえいえ。こちらこそ、また会えて良かったです。ちゃんとお礼もしないまま寝てしまって」
食事を準備しながらはにかむ雅に、五条は内心唸っていた。
ーこれはまた…。やっぱりどう見ても、怨みを買うようなタイプではないんだよねえ。
先日の彼女のリアクションを見ている限り、まず呪霊が見える体質ではない。
呪力も人並みで、全くの一般人。
それが、なぜあれだけの呪霊に寄って集って憑かれていたのか。
本人に原因がないのであれば、あと考えられるのは他人からの干渉ー…呪いである可能性だが、当の本人にはその標的にされるような要素が見当たらない。
とりあえず探ってみようと、出されたカレーライスに口を付けた。
「うーん、料理上手っていいよね。そういえばまだ名前を聞いてなかった。僕は五条悟」
「ふふ…五条さんはコミュ力ものすごく高いですね。飴凪雅です」
「自分でもそう思うよ。了解、雅ね。ちなみに僕に何か聞きたいことってある?」
「え?何でもいいんですか?」
「うん、いいよ。美味しいご飯のお礼に今なら何でも答えてあげる」
うーんと考え込む雅の返答を、唇の両端を引き上げて待つ。
さて、これで何を聞いてくるかな。
今の彼女の立場なら、疑問ならば山ほどあるだろう。
自分を苦しめてきたものの正体。
それを祓った男の素性や、その方法。
なぜ、どこから、どうやって現れたのか。
目的は何なのか。
これからどうすればいいのか。
考えられうる質問とその回答を脳内で巡らせていると、意を決したような双眼が五条を捉える。
「それじゃあお言葉に甘えて」
「うんうん」
ぐっと身を乗り出した雅は、真剣な笑顔で口をひらいた。
「五条さんの好物は何ですか?」
「…基本的に好き嫌いはないけど、敢えて言うなら甘いものかな」
2021/03/04