×
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -
恋VS漫画


 午後三時頃、とあるカラオケボックス。
 満足げにオレンジジュースを飲み干す雅の隣では、ぐったりした飛段がコーラをイッキ飲みしてむせていた。



「ゴッホッ」

「何やってんですか。炭酸イッキ飲みなんて馬鹿ですか」

「あんた初めにも増してキツくなってねぇ…?ってまだ歌うのかよ?!」

「当たり前じゃないですか。つか何か知ってる曲ないんですか?そこにいられるだけなんてアタシが時間奪ってるみたいで嫌なんですけど」

「いや、ある訳ねぇだろどう考えても。バリエーションどんだけあんだよったく」



 飲み干したコップを置いて再度機械に手を伸ばす彼女に溜め息はつくものの、内心は驚いていた。

 曲の内容は兎も角、良い声の出し方をしている。
 これでも人気グループのボーカルを努めているのだ。
 歌うことに関しては自信を持っているし、それなりの実力も自負している。
 そんな自分に劣らない歌唱力に、こっそり感嘆したのは確かだった。

 選曲が選曲だけに疲れこそするものの、飽きはしない。
 歌詞は置いておいて、その熱唱ぶりも自分と共通で好感が持てた。
 雅の思惑とは反対に、どんどん彼の興味を引いていることに彼女は気付いていない。

 今更一人で歌っても何も面白くないだろう、と今日はとことん此処に居座ることを決めた飛段だったが、ふと予約画面に出てきたタイトルに反応した。
 このふざけたネーミング、見覚えが、ある。

 今までと違う反応の彼に気付いた雅が微かに振り返った。



「知ってる曲あったんですか?」

「あ、ああ…いや、気のせいだろ」

「?どれですか?」

「…あー……上から三番目」



 飛段は額を押さえながら唸った。

 気のせいだ、気のせいであってほしい。
 そもそも何でこれがカラオケなどに入っているのだ。
 しかもアニメ曲オンリーの女の持ち歌に入っているとはどういうことだ。

 しかし、こんなタイトルが二つもこの世に存在する訳がない。
 『さくら』や『はなび』のような1単語とはわけが違う。
 被るなんて有り得ないだろう。

 ぐるぐると頭の細胞をシャッフルしている飛段をよそに、雅は彼の言った三番目をチェックする。



「ああ!これですか?!意外ですねッ、でも私これ大好きなんですよ!」



 テンションが上がり、本当に自分に向けられたものなのかと疑う程友好的な雅の態度に、飛段は口元が引きつるのを感じた。

 友好的な態度は嬉しい。
 だが、好きだ?
 彼女の神経を疑った。

 そんな飛段には目もくれず、思わぬ事態に上機嫌な雅は機械を手に取った。



「じゃあ他の後回しにしてこれ歌いましょうよ」

「はあ?!待て待てッ、あんたの好きな曲歌ってたらいいって!」

「だからこれが好きなんですってば。…何、もしかして自信ないんですか?」



 唐突な提案をありったけの表現で拒否したが、残念ながら彼は最後の挑発を黙って見過ごせるほどクールではなかった。
 いわずと知れる負けず嫌いだ。
 しかも歌関連となれば自分のプライドが掛ったも同然。



「上等じゃねぇか、俺の上手さに驚くなよ?」



 マイクを握り、ヤケクソとばかりに仁王立ちした飛段の隣に、そうこなくちゃと笑う雅が並ぶ。
 二人がそれぞれ違う思いで見守る中、静かに曲は始まった。
 桜を背景に出たタイトル、


『I Love mony !君の為なら地獄の果てまで』。


 イントロを聞いた瞬間、飛段の中の疑惑が確信に変わる。
 タイトルの下には、更に其れを根拠付ける文字。
 『作詞・作曲:角都』。

 画面に映るマネージャー(金銭管理)の名前に、思わずマイクを投げつけたくなった。
 

 甦るのは、だるそうに背中を向ける、黒い影のような姿。
 何でも作詞作曲を頼まれたのだとか。




―AKATUKIは、基本的には自主性の強い者の塊だ。

 一部を除いて、他人が作った曲なんぞ演奏出来るか歌えるか!なんて精神なのである。
 しかし、それでは活動など出来るわけがなく、皆でそれぞれ作詞作曲を心がけ、スタッフ達に選ばせていた(自分達では皆が自分の作品を譲らないためである。)
 あまりに決まらない時には、スタッフ達が直々に作詞作曲する時もあった。
 それが中々、メンバー達よりもセンスが良かったりするのだ。

 …一人を、除いて。

 一度全員の案を出してみて判明したことだが、一人だけ、素晴らしいセンスの人物がいた。
 言わずと知れる、角都である。

 作曲は申し分ないのだが、作詞とネーミングセンスがずば抜けて独特だった。
 彼の作品に目を通したメンバーとスタッフ達は皆有らぬ方向に目を背け、なかったことに、した。
 そしてそれ以降、角都の前で作詞の話をしないことが暗黙の了解となったのである。

 その為その話を本人から聞いた飛段は顎を外しかけた。



「はああ!?作詞作曲ってお前…っ誰にだよ!?」

「さあな。よく分からんが電話で頼まれた」



 面倒臭そうに話す角都であったが、飛段には分かった。

 …これは、喜んでいる。

 止まる事のない手と後ろ姿、長年の付き合いで嫌でも培われた勘がそれを物語っていた。
 そんな無謀なことをするのは誰だよと、目の前の人物のセンスも知らないまま注文してしまった哀れな、顔も知らない人物に心中で合掌する。



「…で、大体できたのかよ?」



 少し勝った好奇心により出た質問に、無言で差し出された紙。
 そのタイトルを見て、今度こそ飛段は同情した。




 長いイントロを聞きながら、実験台として無理矢理歌わされた時のことを思い出し、眉間に思いきり皺を寄せる。
 思わず挑発に乗ってしまい嫌嫌歌う自分の後ろで、角都がとても満足げに頷いていたのは今でも覚えている。
 内容が内容だけにてっきり無かったことになったものかと思っていたが、まさかこんなところで再び目にすることになるとは。

 懲りもなく挑発により再び歌うことになった自分に嘲笑をくれてやる。

 長い回想は、始まった歌により引き戻された。
 何の打ち合わせもなく、雅が先頭を切る。

 既にスイッチが入っているのか拳片手に、素晴らしい歌唱力で。



かーねーに、愛っ!



 どんなアニメだ!!
 激しく突っ込みをいれながら、雅の後に続く。



「この世に命授かりし日からこの身全て貴方に捧ぐー」

「地獄の沙汰も顧みずー神への冒讀重ねけり〜…―」



 進むにつれてアニメ内容が気になるような歌詞が続くが、ボーカルの性なのか、いつの間にか歌にのめり込み、熱唱していた。
 気が付いた時には曲は終わり、高揚感と少しの喉の乾きが体に残る。 
 
 深く息を吐きつつ画面に視線を投げると、叩き出された消費カロリーは今までの最高らしい。
 隣で嬉々とかまされるガッツポーズを捉えながらテーブル上にマイクを置いた飛段は、倒れ込むように四肢を放り投げた。

 余程歌にのめり込んでいたのだろう。
 弾力のない革張りソファーに預けた背中は、知らない内に汗が張りついていた。
 ライブ以外でこんなに声を出したのは、いつぶりか。

 額や頬を伝う粒を大雑把に拭いながら、早くも次のスタンバイをしている雅をぼんやりと見つめる。



「…もう次ってか」



 ちょっとはこう、感動とかねーの?

 同じくらいの熱唱ぶりだったように思ったが、彼女にとっては十八番の一曲に過ぎないのだろう。
 まあ今更、目の前の少女に他の女と同じ様な反応は期待していない。
 寧ろ、そんな彼女だからこそ強く興味を惹かれているのだ。

 あれだけの歌唱クオリティで、体力も十分。
 いっそのこと連れ帰って同じステージに立てたなら、どれだけ楽しいだろうか。
 そんな、雅が知れば全力でこの場から脱走するであろうレベルの思考を踊らせる。

 また後で口説いてみるかと区切りをつけ、火照った体を鎮めるためにガラスコップの中身を流し込んだ。
 しかし何分、この部屋に辿り着く前の自分が選んでいた飲み物は、あろうことかコーラ。
 一曲そこらでは抜けきるはずもなかった炭酸が、待ってましたとばかりにシュワリと弾ける。
 喉を通過した容赦のない刺激に、人間の素晴らしい防衛機能が再来した。



「っごほッ…!?」

「はー、学習能力ないですねえ」

「げっほ…うるせ、−!」

「はいはい大人しくしてた方がいいですよー」



 曲が間奏に入ったらしく、マイク片手に歩み寄ってきた雅がわざとらしく溜め息をこぼす。

 多少呆れの孕む視線に苛立ちを覚えながらも、背中を擦ってくれる手に固まった。
 確かデュエットする前も同じ状況に陥ったが、あの時淡々と馬鹿だと称してきた彼女は、一体どこに行ったのか。
 今回ばかりは“俺の魅力にやっと気付きやがったか”なんて発想に持ち込むことすら叶わなかった。
 この期に及んで心変わりをしたり、ましてや媚びを売るような人間でないことは、見ていれば分かる。

 と言っても、やはり原因で思い当たるのは例の一曲しかない。
 そこで、飛段はひとつの仮説にたどり着いた。


−もしかしてもしかすると、アニソンをデュエットしたことで、あろうことか同士意識をもたれてしまったのではないか、と。


 飛段のその考えは正しかった。

 幸か不幸か、この18年間、アイドルやら芸能界やらと騒ぐ人間のみで周りを固められていた雅にとって、趣味を共有できる存在というのは希少だった。
 そんな彼女の脳では、二次元関連の知識を少しでも晒してしまえば、速攻仲間と判定される。
 勿論アニメの主題歌に使われるものからキャラクターソングといった、所謂アニメソングも、論外ではないはずだ。
 彼女の中にはご丁寧にも『2次元に興味がある=いい人』という公式が成り立っていることだろう。

 下手したら漫画ひとつで簡単に誘拐されるんじゃねぇか?

 そんな洒落にもならない、しかしリアリティの塊のような考えが胸をよぎり、思わず頬を引きつらせた。
 そんな飛段をよそに、雅の攻撃は留まることを知らない。



「…まだ辛いですか?オレンジジュースならありますけど飲みます?」

「?!っがはあ!!」

「は?ちょ、なんでさっきより咽せてんですか。もしかしていい年こいてすっぱいオレンジが飲めないとかそんな話ですか。それとも100%しか飲まねえよ、なんてボンボンだったり?」



 何でもないかのように飲みかけの飲み物を差し出してきた少女の行動に、瞠目する。

 勿論、彼は間接キスという行為そのものに動揺しているわけではなかった。
 女からの誘いにはある程度耐性がついているし、実際に様々な手段を用いてそのようなものを促されたことも少なくはない。
 しかし雅の場合はそんな下心もなくただの気遣いで、何も考えていないことも分かり切っている。

 きっとこの少女は、初対面である異性に自分から飲み差しのジュースを差し出す、という行為がいかに一般的観点からずれていることなのか気付いていない。
 飛段は全力で、会ってまだ数時間しか経ってない少女の将来を懸念した。



「…え、なんですかその切なそうな目。何故にそんな表情をされにゃならんのですか」

「お前…いや、やっぱいーわ。言うだけ無駄だろうしな」



 アニソン一曲でどんだけ心開いてんだ。

 距離が縮まったのは喜ばしいが、そのきっかけがアニソンーしかも知り合いの手掛けたものである−とは何とも複雑な想いだった。
 こめかみに指を当てつつ手で制していると、今まで気にしていなかった扉の外が少し騒がしいことに気付く。

 少女達のグループなのだろう、明るい笑い声は複数で、2・3人程の人数を推測させる。
 そのままこの部屋を通り過ぎるだろうと特に気にもせず、「何ですか、さっきから喧嘩売ってんですか。もう勝手にしやがれこのやろー」なんて、歌に戻るのも放棄して軽くふてくされる雅を隣に、持ち歌を探すために機械を弄り始めていた。


−外の少女達が、まさしく“数時間前の自分の状態と同じ”であろうことに気付けたならば、対処のしようもあったかもしれない。

 人間、何か考え事をしていたり興奮が閾値を越えた状態では、激しく判断力が鈍るもの。
 曖昧な記憶で行動をしてしまうことも少なくはない。



『あははっサイッコー』

『ねー!さって次はなに歌おっかー』

『ばか、まだあれ歌ってないじゃない』

『あ、そうだった!それ目当てで来たようなもんだし』

『相変わらず人気凄いよねえ、カラオケでも断然トップ!“AKATUKI”の−…、』



−ん?

 妙に耳に馴染む単語。
 彼の脳がリアクションを返す前に、それは起きた。

 視界に入っていた扉のノブが、がちゃりと金属音を小さく響かせて徐々に開いていく様を見る。
 時間が止まるような感覚も猶予もなく、無慈悲に開いた扉の向こうには、先程まで談笑していたと思われる3人の少女達。
 彼女達の瞳は室内に目を向けた途端、驚愕の色を滲ませた。

 初めの一瞬は、部屋を間違えてしまったことへの反応だったのだろう。
 しかし、中にいる人物を確認した今では、その驚きの色は違うものへと染まっている。

 横では雅がまだ先程のやり取りに未練があるのか「どいつもこいつもよぉぉぉ」と机に突っ伏して嘆いていたが、それどころじゃないだろうとつっこむ余裕もない。



「…え、−飛段…?」



 少女のうちのひとりが呆然と零した音は微かに空気を振動させる程度のものだったが、後ろに控える二人の動きを取り戻させるには充分の威力だった。



「−っうそ、本物の飛段!?AKATUKIのっ!?」

「きゃーっ!なんでこんなとこに!?握手してください!!」



 一気に詰め寄る少女達に、柄にもなく慌てる。
 雅に助けを求める視線を送ってみたが、少女達には流し目という色っぽい仕草に映ったらしく黄色い声が更に高まった。
 雅は雅で、唐突の出来事に自分の平穏な日常が少しずつ崩れていく音が聞こえて黄昏ていた。

 しかしそんな時間も長くはなく、飛段だけを捉えていたはずの少女達の熱い視線が、とうとうもうひとりの人影に向けられてしまったのである。
 一気に突き刺さるような眼光が雅に集中した。



「ちょっと…この子、誰?」

「…まさか飛段の彼女じゃないよね?」



 少女達の悪意を孕んだ疑惑を向けられ、雅の背筋を冷や汗が伝う。
 これは、少しでも返答が彼女達の許容範囲をずれれば、殺られる。

 しかし飛段が部屋を間違えてきた挙句に居座っているという事実を伝えても、彼女達は納得いかないだろう。
 そんな出来すぎた話あるわけがない、と更に非難を浴びるのが関の山だ。
 自分だってそんな話を他人から聞かされたら、「なんの漫画の話?」と返答する。

 それを0,1秒で理解するなり、恐るべき速さで回転した脳味噌から絞り出した策を実行すべく、緩慢な動作でマイクに手を伸ばした。



「あー、マイクテス、マイクテス」



 全員の訝し気な眼差しを全身に受けながら、雅は肺に酸素を溜め込む。
 吐き出す言葉を脳内でイメージしつつ、未だに閉められていなかった扉の外へ身体を向けて、準備オーケー。
 少女達が散々呼んでいたため今ははっきりと覚えている、その名前。
 (かなり一方的な)友情が芽生えた今では多少心痛むが、己の平和のためならば致し方ない。

 すぅぅ…。

 肺が限界を訴えたところで一旦息を止め、大きく開口した。



「−っきゃあぁああ!こんなところに“あの”AKATUKIのボーカルの飛段がいるわぁーっ!!」

「ッッッ!?おま…ッ」



 ギョッとした飛段に構うことなく、更なる後押し。
 先日の某メンバーの時にも劣らぬ強調ぶりだ。



「いやんこんなところで生の歌声聞けるなんて感激ーっ!ああっなんて美声なの聞き惚れちゃうー!!生きててよかった神様ありがとう…!!!」



『なんですってぇええ!?』

『飛段ってあの?!』

『嘘でしょ、こんなとこにいるわけないってぇ』

『なになにドッキリー!?』

『いたずらでしょ〜?』



バタンッ
バタバタバタンッ

 キーン。

 音の反響が鳴り止むのを合図に、そこら中から勢い良く扉が開く音が聞こえてきた。
 耳を抑えている室内の人間を後目に、元凶を作った本人は清々しく顔を輝かせる。



「よ、人気者!名前ひとつでこんなに可愛い女の子達がうじゃうじゃ集まるなんて幸せですねえ、この女子ホイホイが!じゃあお金はここに置いとくんで後よろしくですっ」



 すちゃ。

 セールスマン顔負けの胡散臭さと爽やかさ百%の笑顔を披露した雅は、伝票の上に代金丁度のお金を華麗に積み上げた。
 そこからの彼女の行動は実に鮮やかだった。
 目にも止まらぬ速さで荷物をまとめあげるなり、僅かな隙間をぬって、あっという間に扉へありつく。

 しかも、後々の面倒事を避けるためだろう。
 ご丁寧に顔の見えない角度まで、計算して。



「てめッ…!?」



 既に我に返っていた飛段は間抜け面達を残して部屋の外へと出る雅を追おうとするが、少女達の手の枷による拘束によって身動きがとれず、軽やかに翻る黒髪を恨めしそうに見送った。





 部屋を出て数歩歩んだのち肩越しに見た光景に、雅は大袈裟に肩をすくめる。
 先程まで自分がいた個室は女の子でごった返していた。
 ここがカラオケではなかったら、どこかのバーゲンセールだと勘違いするような様だ。



「…ああ恐ろしや…」



 この空間を構成した張本人は、そんな呟きを空気に滲ませながら颯爽と去っていった。
 彼女が自分の犯した重大なミスに気づくのは、まだまだ先のお話。





−騒ぎから数時間後。
 息を荒く乱しながらなんとかあの場から脱出した飛段は、別のカラオケボックスに潜んで体を休めていた。



「あー、ひでぇ目にあったぜ…」



 ズルズルと背もたれからずり落ちるのも気にせずに深呼吸し、
 …そこで、気付いた。
 少女の名前すら、知らないということに。

 しかしここで諦めるだなんて、そんな生易しい性格でないことくらい自覚している。



「−女に金払わせるたァ、AKATUKIの面目丸潰れじゃねえか」



 くつりと笑うと、飛段はある物を握り締めた。
 あの場から逃げながらも、飛段はしっかりと掴んでいたのだ。
 少女の手掛かりになるものを。



「こんなもん、落としてくかよフツー」



 しかしこれさえ持っていれば、彼女は必ず取り返しにくるだろう。
 数時間共にしただけのどこにでもいるような少女にここまで興味を惹かれているという事実には驚くが、あの言動や行動を思い出すだけで口角があがる。

 ちゃらりと軽い金属音を鳴らしながら揺れたそれは、アニメに疎い飛段でも知っているキャラクターのストラップだ。
 しかも、世界でも限られた数しか作られていない限定品だとCMにまでなっていた。
 これを見捨てることは出来ないだろう、あの少女には。

−俺が持っていると感付いたら、どんな手段を使ってでも近い内に必ず姿を見せる。

 確信めいたものを抱きながら、お気に入りの玩具を逃がさないかのように、しっかりと掌に収めた。





 平凡少女の願いは虚しく、どんどん彼らの中に踏み入っていく。
 まだまだ彼女の出会いは続く。
 趣味に走れば走るほど興味の対象となることに、少女はまだ気付かない。
*<<>>
TOP