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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
許してやらないよ、キミが傷つくなんてこと





 パチリ。

 切れのいい、聞き慣れた空気の振動が鼓膜に伝わる。
 いつもは他にももうひとつ呼吸音が存在するはずだが、生憎本日は委員会だとかで遅れているらしい。
 対戦相手の不在を埋めるためだろう。
 本を片手に詰め将棋をするクラスメートを傍に、雅はぼんやりと窓の外へと視線を投げた。



「緑間君、遅いねぇ」

「そうだな」

「私じゃ赤司君の相手できないからなー」

「別に、キミにそんなことは望んでいない」



 そもそも将棋のルールも知らないんじゃなかったか?

 盤に視点を集中したままの冷静な返しに、まあそれはそうだと首を振る。
 しかし何も役に立てないのは寂しいものだ。



「じゃあ何なら望んでくれる?」

「充分、マネージャーとして貢献してくれている」

「さっちゃんみたいな働きはできないけどね」

「彼女とは役割がまた違うだろう」

「んー…そうだね」



 完全に将棋に意識を置きながらも、間髪いれず的確な応えをくれる。
 そんな彼に淡い期待を持って、ゆったりと頬杖を外した。



「ねぇ、ひとつ質問いいかな」

「構わない」



 赤司が将棋中に私語を受け入れるのは、今の時点では対戦相手をこなしている緑間と、飛び入りマネージャーの自分くらいだ。
 そんな自覚があるものだから、少し口元を緩めて前髪を揺らした。

 くるり。

 身体を回すと、相も変わらず手元に集中する姿が視界を支配する。
 本人にその気はないのだろうが、なんともまあ大した存在感だ。
 真っ赤な色に焦がれながら、曖昧に愚かさを重ねたような疑問を口にした。



「…傷付かないためには、どうするべき?」



 一瞬空気が止まるが、それも錯覚と思うような滑らかさでゆるやかに時は再開する。

 パチン。
 最早彼の一部と化している音が、当たり前のように雅の耳に進入した。
 一息置いて、彼自身の音が追い打ちをかける。








「−オレの傍にいればいい」

「…、……え?」



 どんなに朧気に表現しようが、変わらない。
 きっと、赤司には全てみえているのだろう。
 一点から動かなかったはずの視線が、ブレた。

 交わる瞳に、世界と呼吸が停止する。



「傷つきたくないんだろう。だったらそれが一番手っ取り早い」



 塞がれた両耳。
 あらゆる雑音が遠のいた。







許してやらないよ、キミが傷つくなんてこと


(恐怖を感じるくらいの、把握と掌握)
(隣にいる存在であるならば、守る理由と意義は十分にある)


世界にさよなら。




(お題配布元:mikke様)
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