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カボチャは見ていた


 賑わう仮装パーティーの中。
 相変わらずの人当たりのいい表情で近寄ってきた雅が、黒子のマントの裾を引っ張った。
 思わず倒れそうになるが、それすらも見通していたらしい。
 さりげなく前方に回った彼女に、両手を掴まれる。



「黒子ー、かぼちゃ彫って!」



 続けて渡された彫刻刀とカボチャに、黒子は少し眉を下げた。



「こういうのは得意じゃないです」

「大丈夫、黒子が作ったものなら私は何でも愛せる!」


 
 悪戯っぽく笑ってさらりと言い放った雅に、暫しの沈黙。

 不意打ちにも程がある。
 以前の不意打ちの口づけのお返しだろうか。
 最近分かったことだが彼女は中々の負けず嫌いだった。
 惚れた弱みというやつか、彼女には敵う気がしない。

 しかし、やられっぱなしというのも男としてどうなのか。



「…飴凪さん」

「ん?」


 
 楽しげに視線を向けてくる雅をじっと見つめる。
 やはりこれは彼女なりの挑戦だろう。
 一拍置いて、黒子は少し微笑む。



「―魔女、可愛いですね」



 雅の頬が染まったのが目に見えて、嬉しくなった。
 今回は自分の勝利で終われそうだ。



「…言うのが遅い!」



 お得意のでこピンを喰らい、手で押さえる。
 もう一度視線を合わせると、今度は同時に笑った。



「ほら、彫って彫って」

「何被せてるんですか」

「魔女帽子!これ絶対黒子のが似合うよ。かわいー」

「…男に可愛いはどうかと思いますよ」



 少しは意識してくれないと困る。
 ため息交じりに黒子はカボチャを彫り始めた。
 これが終わったらまた不意打ちをかましてやろう。


 黒子のこの誓いを雅が知るのは数分後。




カボチャは見ていた。


(今度こそ勝ってやる!)
(いくらでも受けてたちましょう)


愛の戦い。
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