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手加減なんてしません





 ぼんやりと遠くに視線を投射していると、ふわりと肩に温度が降りてきた。

 この場所に来れる人物は、限られている。
 その中でこんな行動をとるのは恐らく一人だ。
 雅が顔を向けることもなくその名前を呟くと、静かな笑みが空気を通して伝わる。

 音もなく、気配のみが隣へと動いた。



「風邪をひきますよ」

「あれ、今日は用事なかったんでしたっけ」

「たまにはこういう日もあります。放っておくと寒空の下で考え事をする子がいますから」

「なるほどー」



先程掛けられた羽織りにすっぽりくるまりながら目線を変えれば、柔らかい瞳とぶつかる。



「それで、本日のお悩みは?」

「今日は風さんの本気について考えてました」

「答えは出ましたか」

「本人に聞くのが一番確実で手っ取り早いという結論に至りました」

「お答えしましょう」



 相変わらずの流れるような音のやり取り。
 微笑みを絶やさない彼を少しでも悩ませたくて、昨晩から全力で煮詰めた質問を振りかけた。



「−もし私を賭けて決闘、なんてことになったら風さんはどうするのかなーって」

「雅さんを賭けて、ですか」



 きょとん、と漆黒の髪を揺らした姿に、心の中でガッツポーズをきめる。
 もう一押し!



「うん。それが明らかに風さんより弱い人でも全力で戦う?」

「…そうですね、」



 少し考えるように視線を流したのち、うーんと唸る。

 大成功だ。
 どんな返答がこようと、今日はこれだけで十分満たされた。
 好きな人が自分を想って思考を巡らせてくれるなんて素晴らしい。

 次に雅と瞳を交えた風は、いつもと変わらぬ笑みを浮かべた。



「−もちろん、」







手加減なんてしません。


(貴方に関することであれば、どんなことにも手は抜けませんから)
(うわーなんかこれって遠回しのプロポーズみたい)


嬉し誤算、さん。



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