×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




狡いのは性分なんです




 青空の下、公園の木製ベンチで雅は機嫌よく前髪を揺らした。
 遠くから近づく人影に気づくと、立ち上がって大きく手を振る。



「安室さん!」



 それに応えるように小走りで駆け寄ってきた彼に、眩しそうに双眼を細めた。



「お待たせしました、雅さん」

「ううん、バイトお疲れさま」

「…あれ、何かありました?嬉しそうですね」



−さすが、めざとい。

 相変わらずの洞察眼というか、人の変化に敏感である。
 不思議そうに首を傾げる安室に対し尊敬の眼差しを向けながらも、手に持っていたそれを見せつけた。

 白い指先から、控えめに緑が覗く。
 ハートが四枚身を寄せ合うそれは、誰もが見たことがあるだろう。



「これ、さっきそこで見つけたんだけど」

「これは…四つ葉のクローバーですか」

「そう。昔はよく探したもんだけどねー」

「ああ、雅さんそういうの好きそうですね」

「安室さんは…あんまり?」

「そんなことはないですよ。占いとかも普通に見ますし」



 こうして人当たりのいい笑顔で返してくれるから、ついつい気分が上がってしまう。
 待っている間にと暇つぶしに探し始めたのだが、つい熱中してしまった。
 見つけた瞬間に頭に浮かんだのが彼だったのにも、納得できるというものだ。

 ささやかな幸せを分かち合いたいと思うくらいには、自分の中で存在が大きくなっている。



「じゃあこれ、どうぞ」

「え?僕にですか」

「はい。いつもお世話になってるから…ってお礼にもならないけど。…やっぱ大人の男の人がこんなの貰っても困るか」



 差し出した手を、慌てて引っ込めた。
 勢いで譲ろうとしてしまったが、いくら安室がいい人でも、大の大人が四つ葉のクローバーをプレゼントされて心の底から嬉しいだろうか。
 幼子が無邪気に渡してくるものなら可愛らしく感じるだろうが、成人した人間ではその効果も期待できそうにない。

 所詮は草だ。
 加工してあるものならともかく、とれたてフレッシュな実物を手渡しされてもどうしようもない気がする。

 思わず俯いた視界の中、褐色の手が己の手を引き止めた。
 顔を挙げれば、嬉々とした微笑みとぶつかる。



「とんでもない。ありがたくいただきます」

「…安室さん、別にそこまで気を遣って貰わなくても」

「いえ、純粋に嬉しいですよ。−ところで雅さん、四つ葉のクローバーの花言葉はご存知ですか?」



 一拍おいての唐突な質問に、小首を傾げた。



「え、花言葉って…。希望とか幸せとかじゃなく?」

「ええ、四枚の小葉はそれぞれ希望、誠実、愛情、幸運の象徴と言われていますね。では花言葉は?」

「え、いや、一緒のものかと思ってたけど…その言い方だと違うんだよね」

「そうですね。まあそれは後々調べていただくとして」

「教えてくれないの?」



 まさかの焦らしに、思わず食いつく。
 いつもの彼なら、この場で答えをくれそうな場面だ。
 雅の懇願と期待の混じり合った視線に、困ったような笑みが返された。



「…雅さんの反応も見てみたいところですが、取り消されても寂しいですし」

「そんな内容!?」

「あはは、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。でも僕の返事だけ先にお伝えしときますね」

「返事って…」



 疑問を口にする間もなく、ぐっと接近する気配。
 最早細胞にまで染み込んだお馴染みの香りが、ふわりと鼻腔をくすぐる。
 安室が雅の身長に合わせて少し屈んだらしい。

 眼下に迫った首筋から目が離せない。
 頭が回らない。

 静止した世界の中、耳元の空気が揺さぶられた。



「−喜んで」

「!…っ、」



 その時点で身を引きたい衝動に駆られるが、クローバーを持つ手が捉えられたままである為、それも叶わなかった。
 ついでとばかりに、低めの温度が耳朶を掠める。
 それは一瞬のことで、意図したものでないと言われればそれまでだが−。



「!あ、あむ…」



 囁かれた方の耳を、反射的に空いた片手で庇った。
 爽やかな笑みが返ってきたあたり、やはり確信犯だろう。
 嗅覚、視覚、聴覚、触覚…、



「では、お言葉に甘えてこれはいただくとして。これからどうしますか、実はいい紅茶を仕入れてあるんですが」



 これで、味覚。
 毎度ながら、五感を見事に掌握されてのアプローチである。

 クローバーを受け取ってくれるのは嬉しいが、そろそろ手を解放してほしい。
 おかげで、熱くて仕方のない耳の片方は彼から丸見えだ。

 恨めしそうな雅の視線をどう解釈したのか。
 無邪気な表情で頭を傾けて、触れたままの雅の手を持ち上げた。



「…せっかくなので、このまま帰ります?」

「っ安室さんはいつもずるい…!」



 気持ち睨むように見上げると、柔らかく双眼を細める姿に息が詰まる。
 いつの間にやら手の中のクローバーは安室の右手に。
 彼の左手の温度が冷えた己の右手に重なった。







狡いのは性分なんです


(表沙汰にするのは、好きな人に対してだけですが)
(四つ葉のクローバーの花言葉…は、!ままま待って取り消しはしないけど違わないけどいやちょっと待って)


みっけ、幸せちょうだい。



※四葉のクローバーの花言葉=Be Mine(わたしのものになってください)
※耳へのキス=誘惑

[ 7/10 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]