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雷に打たれるより余程衝撃的で刺激的。



 ザァア。

 どんより暗く覆われた空を見上げて、雅と三ツ谷はバス停備え付けの簡易ベンチに腰掛けた。
 通り雨に慌てて屋根のある場所に駆け込んだが、幸いにも人気はない。



「あー、急に降ってきたな」

「でも雨宿りできるとこが近くにあって良かったね」

「まーな。ちょっと濡れたか?」

「んー?大丈夫大丈夫、これくらいならすぐ乾くよ」



 前髪から滴る雫を軽く払ってヘラリと笑うが、不意に柔らかいもので視界が覆われた。



「いや濡れてんだろコレ。風邪ひいたらどうすんだ」



 続いてポンポンと頭をなぞる温度に、彼持参のタオルで髪を拭かれていることに気付く。

 何という早業、そして用意の周到さ。
 ときめきで回らない脳を叱りながら、何とか冷静を装って会話を続けた。



「え、準備いいね。タオルいつも持ち歩いてるの?」

「おー。外出るとルナとマナが何やらかすか分かんねぇから、必需品」

「もはやお母さん…」

「ハイハイそれでいーワ。風邪ひくなよ」

「はーい。三ツ谷君は大丈夫?私が拭こうか」

「はは、ありがとな。でもオレはもうほぼ乾いてる」



 幼い頃から妹達の世話をしているせいか、三ツ谷の髪拭き技術は雅を大いに唸らせる。
 痛くもないし、絶妙な力加減で水分だけを確実に攫っていた。

 …これ、結婚したら毎日拭いてくれたりしないかな。

 なんてお得意の妄想スイッチが入ったあたりで、雅の精神を激しく揺さぶる出来事が起きた。

 ゴロゴロ…



「っ!…、」



 遠くで鳴る地響きと、辺り一帯を照らした光加減に思わず両肩が跳ねる。
 先程まではしゃいでいた彼女の変化に三ツ谷が気付かないわけもなく、やんわりと手を止めると顔を覗き込んだ。



「飴凪、雷ダメだっけ」

「ん、んー…ちょっと、だけ」

「相変わらず嘘下手だな」



 手、震えてるじゃん。

 少し笑うような気配と、頭から離れる温度に感触。
 名残惜しくてすかさず見上げるが、代わりに耳が大きな何かで覆われた。



「?…え、」



 よく見れば彼の首元にあったヘッドホンがないため、自分の元に移動してきたらしい。
 意図が把握できずに瞬くと、聞こえるようにヘッドホンをちょっとだけずらした三ツ谷が悪戯っぽく垂れ目を細めた。



「要は音と光がダメなんだろ。耳塞いで目つぶれば解決じゃねえ?」



 雷落ち着いたら声かけてやるから、目つぶっとけ。

 言うなり再度、ヘッドホンが装着される。

 アナタはできすぎ君か。

 あまりにスマートな気遣いに失神しかけながらも、お言葉に甘えて瞼をおろした。
 雨にデートを中断させられたことに内心しょげていたが、彼と一緒ならばもういつでもどこでもオアシスだ。

 結婚できる年齢まであと三年、地味に長い。
 それまで我慢できるだろうか。
 一層のこと法律変わらないかな。

 暗転した無音の世界で好き勝手思考を巡らせていたが、暗闇に更に影が落ちた気がして内心首を傾げた。
 続いて、唇に重なる体温。
 反射的に開眼すれば、長い睫毛が視界いっぱいに広がった。

 いやいや睫毛長すぎよねお人形さんか。

 他人事のように見ていられたのはそこまで。



「…ん!?」



 時間にすれば一瞬の出来事が、やけにスローモーションに感じた。



「ー、もう目ェ開けてるし」



 唇が離れるなり少しだけ眉を寄せて、慈しみたっぷりの視線を交えて囁かれて、正気でいられるわけがない。



「ななな、え、なん…!」

「悪ィ、目つぶってるとこ見たらつい」

「だって、え」

「そうそう、オレが誘導したのにな」

「んん、えっと」

「でも、雷のことなんて吹っ飛んだだろ?」



 ニカリと歯を見せられて、はたりと動きを止めた。
 確かに、無意識にヘッドホンも外してしまっているしばっちり開眼しているのに気にもならない。



「どお?」

「…三ツ谷君が好きすぎてツラい

「そりゃ何より」



 両手で顔を覆うと、満更でもなさそうな声が降ってきた。







雷に打たれるより余程衝撃的で刺激的。

(私の方が好きすぎてコレ釣り合いがとれないのでは…)
(目つぶってるとこ見て我慢できなくなるとか、オレも相当なんだけど)

バスがまいります、一旦停止。


2021/07/16


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