だがしかし手足が棒のようだ
◇
白んだ空を見上げながら、肩から滑り落ちかけているマフラーを直した。
ツルツルした上着を着用しているためか本日数度目のそれを、見かねたのだろう。
隣から伸びてきた手が、マフラーの端を捉える。
「−少しじっとしていて下さい」
きゅっと緩く括られたそれに、少し顔を埋めるようにして笑んだ。
キツすぎず、暖かく、センスもいい。
相変わらず何でもできる人だと視線だけで見上げれば、爽やかな笑顔が返される。
「どうです?」
「ん、丁度いいです。ありがとうございます安室さん」
「どう致しまして。大分寒くなってきましたからね」
「そろそろ雪も降りそうですよね」
「雅さんは雪が楽しみですか?」
「見てる分には…好きです」
「なるほど」
クスリと空気が揺れるのを感じ、じんじんと耳元に熱が集まった。
彼の隣を歩くのはいつになっても慣れない。
未だに顔もまともに見れず、自分から詰められない距離感にもどかしさを感じる。
空模様同様に真っ白に染められる頭の中を叱咤して、何とか会話を繋げようと唇を開いた。
「…そういう安室さんは、どうなんですか?」
「ああ、雪ですか?うーん…まあ好きとも嫌いとも言い難いですけど、…、」
「…、けど?」
一呼吸の沈黙に思わず顔をあげれば、ばっちりと視線が出逢う。
待ってましたとばかりに細められた双眼から、瞳も反らせずに。
「−照れ屋な女性と手を繋ぐ為にはいい口実になるかもしれませんね」
「…え、あ…」
早く降ればいいですね。
照れも感じない自然さでニコリと前髪を揺らした彼に、数秒惚ける。
かじかんだ指先を、握り込んだ。
だがしかし手足が棒のようだ
(いいい今から手袋でも見に行きませんか…!)
(あれ、寒いなら直ぐにでも繋ぎます?)
じんぽっか、冷えた指を温めるのは。
2013.12.31
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