あれ、いちおう愛の告白をしているつもりなのですが
◇
「…ねぇ的場」
「何か?」
沈黙を破ったソプラノに視線を流せば、あどけない漆黒とかち合う。
長めの睫毛が気怠そうにゆったりと上下した。
「−死ぬときは私の隣で死んでね」
「生憎、心中には興味ありませんねぇ」
クスリと唇の端を引き上げて視線を書物へ引き戻すと、隣で畳上に肢体を放り出す雅はゴロリと寝返る。
「いや、一緒に死んでとかそういう意味じゃなくて」
うーん言葉って難しい。
眉でハの字を造りながらコロンコロンと身体を左右に転がすと、青みの掛かった黒髪が窮屈そうに畳に広がった。
この部屋を尋ねてきたときは横でひとつに流していたのだが、くつろぐうちに髪紐が解けてしまったらしい。
何とも無防備な姿に、的場は音もなく息を吐いた。
気を許してくれていると喜ぶべきなのか、男として意識されていないと悲しむべきなのか、はたまた女性としての自覚を持てと怒るべきなのか。
カタリと筆を置くと、未だに唸る彼女の片手を掴んだ。
手首を固定されることで動きを止める肢体。
「…お?」
いきなりの接触にパチリと大きく瞬いた瞳に微笑みを返す。
「−君こそ、いい加減私のものになってはどうですか?」
「んん?」
ゆるく前髪を揺らして見上げてくる顔の横に手を置くと、的場の体重が乗った畳がギシリと鳴いた。
結った黒髪が肩から滑り落ち、黒同士が混ざる。
「私は君が欲しい、と以前からお伝えしていると思いますが」
「えー、だって私的場みたいに怪しい魔術みたいなの使えないし」
「…、」
全く、この娘はどうしてこう一般とずれているのか。
からからと無邪気に空気を揺らす音に、的場は静かに笑みを称えた。
さわらぬ神に祟りなし。
彼を知るものが見れば間違いなく顔を蒼白にしてあらぬ方向を向くような笑顔だ。
「…いえ、儀式とかに使うためではなく」
今日こそは無理矢理にでも分からせるべきかと本格的に口説く体勢に入ろうとするが、彼女の方が行動が早かった。
するり。
掴んでいない方の雅の腕が首に回り、そのまま一気に引き寄せられる。
柄にもなく少し驚くが、次の瞬間にはいつも通り余裕の乗った唇が動いた。
「どうしたんです?君らしくもない」
互いの鼓動が感じられそうな距離で、真剣な瞳が瞬く。
「−的場、貴方はやっぱり私の隣で死ぬべきだと思う!」
「…そんなに心中がお望みですか」
「っああ難しい…!」
あれ、いちおう愛の告白をしているつもりなのですが
(え、もっと直接的に言うべきなの?一緒の墓に入ってみたいな…いやいやそれはちょっとイタいな)
(遠回しに言っているつもりはないんですけどねぇ。これで伝わらないとは何とも先が思いやられる)
すれ違い、勘違い、意味分かんない。
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