キミの中の温度の話
◇
−よし。
人もまばらな放課後の教室。
窓際で机に伏せるプリン頭を確認して、雅はそろりと歩みを進めた。
手を伸ばせば肩に触れられるか否か。
そんな距離で足を止めると、遠慮がちに呼びかける。
「おーい孤爪君」
随分控えめな音であったが、色んな面で敏感な彼には十分だったらしい。
一拍置いて、のそりと頭が動いた。
「…あ、飴凪さん」
「ごめんね心地よい時間を邪魔して」
「別に。どうせ部活あるし…起こしてくれてありがと。…何の用だった?」
やはりいつも通り。
ふいと反らされる視線にちょっとした寂しさを覚えながらも、特に気にせず本来の目的を伝える。
彼が他人との関わりが苦手なことは、見ていれば一目瞭然だ。
それでも、雅には、クラス内では比較的よく彼と話す方だという自覚があった。
「数学課題のプリント回収です。今出せるかな」
「…ん、よろしく」
「はいはい、承りました」
机からすんなり出てきた紙を受け取って、
−そこで、固まる。
否、動くに動けなくなった。
理由は簡単。
受け渡しの際に指先が触れ合って、あろうことかお互いに動きを静止してしまったからだ。
あれ、こりゃ何てこったい。
「…、ごめん孤爪君」
白く弾けた意識を意地で引き戻した雅は、とりあえず体制を整えてから出直そうと、腕に向けて指令を送る。
しかしながら、“腕を引っ込めろ”というそれが実行されるには至らなかった。
今度は、視線が出会ってしまった。
通常であればすぐに反らされるはずの瞳が、今回はどうしたことか。
じっと自分を捉える双眼から、逃れる術はない。
反らせない、というよりは反らしたくない。
ここで自ら視線を外すのは明らかに勿体無い気がして、荒ぶる心臓は無視した状態で見つめ返した。
見れば見るほど。
ねこ、みたいだなあ。
いつの間にやら完全に魅入ってしまっていたが、不意に空気を伝った音で我にかえる。
「…やっぱり、上がってる」
「え?」
主語が欠落したその台詞の意図が掴めず戸惑うが、どことなく満足そうな表情を前にしてどうでもよくなった。
キミの中の温度の話
(おれと話してる時。解釈は多分、同じだと思うけど…今はこのままでいい)
(今日も超絶かわいいです。くそう思いっ切り構いたいのに!)
暴れ心臓、あっぱれハート。
(お題提供元:fynch様)
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