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03:




 雅は七組と掛かれたプレートを見上げ、肩を落とした。
 今オーラが見れる人が居たならば、彼女は間違いなく黒い空気をまとわりつかせていることだろう。

 隣には、普段とは別人のように浮ついた空気を撒き散らす友人。

 彼女には悪いが、出来ればそのお目当てとは対面したくない。
 金江の言う「白石君」は、ほぼ100%の可能性で雅の日々の対戦相手だ。
 自分が負けていると感じてる今、会えなくなるのは困るが、(勝ち逃げなんて許すものか)学校で顔を合わすのも頂けない。

 それこそ休息の場が無くなってしまうではないか。

 かと言って自分が言いだしたことを途中でほっぽりだすだなんて、彼女の美学が許さなかった。

 どうしたものかと眉間に皺を寄せて悩んでいる姿を憐れんだのか。



「雅…白石君いない」



 幸運の女神は雅に味方してくれたらしい。
 どんよりしたモノを背負う金江がドア付近から戻ってきた。

 有難う女神!

 心の中でガッツポーズを決めると、落ち込む金江の肩に手を置く。



「残念だったね金江。まあ、また今度」

「はぁー。仕方ないかぁ」

「ジュースでも慢るから元気出しな」



 雅ーと抱きついてくる金江を抱き返す。

 そうと決まれば速効立ち去るべし。
 彼女の背に手を添え、慰めるようにして元来た道を引き返し始めた。

 クラスに戻ってしまえばもう会う可能性は無に等しい。
 それくらい、この学校は広いのだ。
 始めてこのマンモス校に感謝の念を抱きながら、ほくそ笑む。

 この角を曲がりさえすれば違う領域だ。

 しかし、運命の悪戯は続くらしい。
 うし!
 
 勝利を確信した瞬間、




「落としもんやで」




 ポン、と肩に手を置かれた。
 声とか、視界の端に映った包帯だとか、そんなのを認識する前に体は反応した。
 いつもの癖で反射的に笑顔を作って、振り返る。



「あ、ありが」


 
 言葉は続かなかった。

 ちょ、雅!

 隣で金江が顔を赤くして動揺しているのは意識できる。
 ただ、頭が働かない。

 固まった雅に少し困ったように笑う「白石」は、手に持っている物を掲げた。



「いきなりゴメンな?落としもんや、飴凪さん」





(何で生徒手帳なんか落とすんだアタシの馬鹿!)




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