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02:




 コロコロ。


 雅は口の中で檸檬味の飴を転がしながら、ぶすっと頬杖をついていた。
 目の前の黒板ですら憎らしい。



「おや、珍しく不細工な表情ですね飴凪ちゃん。自慢の笑顔はどうしたよ?」

「金江…」

「もしやまた負けたか?例のスマイル王子に」



 トン、と机に両手をついて意地悪く笑う友人を、雅は鋭く睨みつけた。

 おぉ怖い。

 そんなこと思ってもないくせに、わざとらしく視線を反らしておちゃらけた表情で両手を上げる。
 しかし、こんな彼女だからこそ、雅も笑顔意外の表情を披露出来るのだ。
 ガリガリっと小さくなった飴を咬み砕くと、酸っぱい味が口中を満たした。



「完敗」

「おぉ、笑顔が取り柄のアンタにそこまで言わせるなんて。私もお目にかかりたいもんだわ」

「あ〜金江の好みっぽい顔してるよ」

「マジで?」



 最近でこれでもかと言うほど見まくった顔を思い浮かべて、頷く。
 軽く目を輝かせた金江を苦い顔で見つめた。

 彼女の好みのタイプは、涼しげな美形で空気を読める人。
 間違いなくあの男は理想に当てはまることだろう。

 今度その時間に覗いてみようかな〜なんてニヤリと笑う金江に溜め息を零す。
 止めれ、と軽くあしらったのち、雅は新たに飴をほおりこんだ。

 あ、今度は苺味。

 ちょっとした幸せに浸っていると、うっとりした金江が口を開いた。



「あー、でも今んとこ白石君に匹敵する人はいないって多分」



 相変わらずだな。
 クールに見えて意外に乙女チックな彼女に苦笑し、話に乗る。



「白石君?」

「はぁ。アンタ興味ないもんね。勿体ない!そんなんじゃいつまでたっても青春できないよ」

「ほっとけ。で、白石って誰?」

「知らないアンタが不思議だよ全く。白石君といえば七組の完璧人間で有名でしょうが!」

「完璧人間ねぇ」



 ガリガリと苺味の塊を噛み砕く。
 飴を途中で噛むのって短気な証拠だったっけ。
 自分はきっと短気なのだろう。
 そんな事を考えながら、握りこぶし片手に熱く語る金江を見つめた。



「顔良し頭良しスポーツもできて、その上性格も良い!こんな完璧な人他にいる?!」

「まぁ探せばいるんじゃない?それより七組でしょ、見かけるのも難しいんじゃないの?」



 だって半端ないよ、この学校のクラス数。
 新しい飴を出そうとポケットを探りながら言い放てば、ギラリと金江の目が光る。

 おっと、地雷踏んだか。

 両肩をグワシと掴まれた雅は、やっちまったとこっそり頭を抱えた。



「そうなのよ!一組と七組…ッこんだけ離れてちゃあ合同授業は疎か、廊下ですれ違うのも難しいの!!」

「まぁそうだろうな」

「あぁ振り分けた教師達が恨めしい、同じクラスの奴は羨ましい…!」



 何と正直な心の声だろう。
 いっそのこと清々しいな。
 肩を解放され、自由になった雅はお茶に手を伸ばす。
 金江がワナワナ震える両手に視線を落としながらブツブツ呟くのを、横目で見ながら口をつけた。

 本日は爽健美茶だ。



「あーあ、今日も見るのは難しいかしら」

「そんなに見たいなら七組まで見に行けば?」

「そッそんな恥いこと出来るか!一人じゃあ……」



 赤くなっちゃって、アンタそんなキャラだったか?
 ちょっと可愛いじゃんかコンチクショー。

 なんて思ってしまったから、つい口が滑った。



「じゃあ着いてってあげようか?」



 …まずった。

 今何言ったよ自分。

 顔をこれでもかというほど輝かせた金江を見てから思っても、もう遅い。
 口は災いの元、なんてことわざ自分の行動に対して使いたくなかったよ。
 思わず空笑いを浮かべた雅の両手をガッチリ掴む金江。

 きらきら輝く瞳を見ちゃ、もう何も言えない。

 こうなりゃ多少面倒臭かろうが着いてくしかないでしょう。
 諦めて、解放された手で再度お茶を掴む。



「で、白石の特徴は?」

「お、見る気になった?!」



 ニンマリ顔を前に怠そうに笑ってやる。
 どうせ行くんならチェックしといたほうが時間の無駄にはならない。

 手土産程度のついでにね。

 そう言い放ってからお茶を口に含む。



「まぁ大した進歩だね。んーまぁずば抜けて容姿良いからすぐ分かると思うけど…」



 口元に手を当てて考え込む姿を視界に入れながら、ひたすらお茶を喉に流し込んだ。
 
 あ、もうなくなる。

 半端が嫌いな雅は飲みきろうとラストスパートを掛ける。
 その瞬間だった。



「あ!左手に巻いてる包帯が目立つかも」

「ゴフッ!」



 明るい声で放たれた爆弾に盛大にお茶を吹き出す。
 まさかこんな漫画のような行動を自分がするとは。

 いや、そうじゃないだろ。

 カブリを振って、汚いと叫びながらもハンカチを差し出してくれる優しい友人をガン見した。



「…今何て?」

「は?白石君の特徴のこと?」

「それ」

「だから左手に包帯巻いてんの!変わってるでしょ」



 ああ、とんだ変わり者だ。

 最後にニコリと笑う金江を見ながらも、雅の脳裏には違う映像が映る。
 最近は日常の一部になっているシロ。
 軽く挙げられる左手から覘く真っ白な。

 …そう何人もいるわけのない特徴。

 完璧な笑顔がフラッシュバックした。




(何だこのドラマ的展開は!?)





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