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◇
−・・・いや、もう何が何だか分かんねーんだけど。
いつかの誰かのような心の呟きをこぼしながら、高尾は固まっていた。 律儀な女の子の好意で遊園地に来て、イベント中に何やら謎の事件に巻き込まれ、彼女とは離ればなれ。 同じく巻き込まれた被害者であろう女の子の母親と共に、警察の人間と待機中だった、はずだった。
電話で席を外していた母親が戻ってきてから数分後、事は大きく動いた。 内線が入ったのか、一気に顔色を変える男達。 どうやら、協力者からの『待機』が解けたらしい。
解決したからこの件は終わりだとか、そんなわけにはいかないとか、何やら複雑な話になっているようだが、高尾が知りたいのは一つだけだ。
「あー、えっと混み合ってるとこすいません。雅ちゃんは、…女の子達はどうなってるんすかね?」
携帯片手に討論を続ける中年男性の隣の、落ち着いた警官に視線を投げる。 高尾の真剣な双眼に応えるように、真摯な眼差しで口を開いた。
「−多分、そっちは気にしなくてよさそうだ。今もめてんのはこっちの事情でな。数分前に、女の子達は解放されたらしい」
「っマジっすか!?え、今どこに…」
「すまんが、そこまでは分からん。ただ、怪我などはなく二人で揃って園内に戻っている」
「…その情報は、信じてもいいんすよね?」
高尾の、年齢より少々大人びて見える真意を探る光に一瞬固唾を呑むが、すぐに苦笑に変化する。
「大丈夫だ、そこは信じてもらっていい。協力者からの情報だったと連絡を受けている。本当に悪かったな、大事な彼女を危険に巻き込んで。気が気じゃなかっただろ」
何だか生温かい感情を向けられている気がするが、今のメインはそこではない。 協力者=雅であろうことは彼らとの共有事項だ。 協力者からの情報ということは、恐らく安心していいのだろう。
男の言動からも特に見栄を張ったり嘘をついている様子はないが、一刻も早く事実を確認する必要がある。 自由の身なら、もう連絡も構わないはずだ。 すかさずポケットから携帯を取り出すと、最近登録したばかりのその名前に狙いを定めた。
プルルル…
しかし、呼び出し音は途切れる気配がない。 先ほどの会話からすると、現在、中年刑事と通話中なのは彼らの仲間だ。 繋がらないということは、もしやまだどこかとお取り込み中だろうか。
「…、もう探しに行ってもいいんすよね」
「ああ。拘束して申し訳なかった。早く探して会ってやってくれ」
その言葉を聞いた瞬間に、扉に向かって走り出すが、急ブレーキをかけて振り返る。 今、同じ気持ちでいるのは己だけではない。 目的が共通なら、ひとりで飛び出すわけにもいかないだろう。
はやる気持ちを抑えて唇を開きかけるが、ぶつかった視線の穏やかさに固まった。
「…ー、…、ありがとうございます。実は、娘の行き先に思い当たる場所があります」
「!」
初めの方は独り言なのか聞き取れなかったが、ひどく優しげに微笑む姿に言葉を呑み込む。 娘の無事が分かって安心したのか、ゆったりと高尾の隣まで追いつくと、そのまま扉に手をかけた。
「あの子、よく迷子になるので。よく来る場所では、集合場所を決めているんです」
前は初めて行った場所だったのでお世話になっちゃいましたけど。
ゆるやかに口元を崩しながら建物を後にする女性に続くが、得意なはずのトークが出てこない。 こういう性格なのかもしれないが、あの会話を耳にしただけでここまでリラックスできるものなのか。
刑事を疑うわけではないが、現に高尾は雅の姿を確認するまでは落ち着きそうにない。 しかし、彼女は既に娘が安全な状態であることを確信しているばかりか、余裕がありすぎるように見えた。 娘があんな小さな女の子であれば、母親としては一刻も早く対面しようと走り出してしまいそうなものだ。
もやもやした気持ちに蓋をするようにひっそり深呼吸すると、女性に習って口元を緩ませた。
「集合場所を決めるってのはいいっすね。オレの周りも案外自由気ままなヤツ多いから、なんかスポット決めとこっかなーなんて」
「…、ふふ、そうですね。オススメです」
高尾が切り替えしたのが意外だったのか。 女性は少し目を見開いた後に、楽しそうに口元に手を寄せる。
その様子に首を傾けるが、不意に鼓膜がキャッチした空気の振動に、一気に意識が持って行かれた。
「ママーっ」
「!みわ…っ!」
幼いソプラノが聞こえた方向に顔を向けると、女の子が母親に向かって走りだす場面が飛び込む。 そしてみわの背後には、
「は!?なん…、」
望んでいた人物では無く、なぜか着ぐるみのウサギが佇んでいた。
彼女たちを連れ去ったウサギかと一瞬構えるが、間もなく違和感に気付いてその可能性は弾く。 じっとこちらを見つめるつぶらな瞳。
サイズが合わないのか、だぼつきがみられるその姿に、みわが警戒せずに一緒にいたことを考えると…、
「…え、雅ちゃん?」
「!っ」
確信もないまま呟いてしまったが、ばっちりウサギの元まで届いたらしい。 ピクリと肩が動いたかと思いきや、今度はその身体が急接近してきた。 もはや突進である。
「ぇ、っておおぉお!?」
ぼふっ。
勢いのままに高尾の真ん前まで迫ったウサギが、その両肩をがっちり捕らえて停止した。 暑いのか興奮しているのか、何やら荒い呼吸がこもる空気を通じて伝わる。
「っふー…ふー、…ふー」
「ぶっ…。スイマッセン、ちょっと恐いんすけど」
自分の笑いを呼吸をするように引き出してくるこの感じは、きっと彼女だ。 他人には理解できないであろう雰囲気論で妙な確信を持ちつつ、ウサギの出方を待った。 そんな高尾に応えるようにソワソワと辺りを見渡すと、彼を解放して着ぐるみの頭に両手をかける。
かぽ。
被りモノが外れると、一気に舞う黒髪。 至近距離だからかシャンプーの香りが顔を覆った。
「っー…、」
そこから覗いた表情があまりに高尾の想像の域を超していて、目が離せない。
「っぷは、…やっぱり暑い!そんでもって高尾くん本当にありがとうっ。ー…信じてよかった」
「!」
熱気か興奮か、頬を高揚させた雅が、あまりに嬉しそうに笑っていたから。
双眼がゆったり細められて、女性独特の柔らかさまで加わる。 嬉しそうに笑う子だと笑顔を褒めた記憶もあるが、今回のは今までの比ではなかった。 何が雅をそこまで喜ばせたのか。
その上、前回と同様に何も出来なかった自分に対して感謝の言葉ときた。 しかし、飾り気のないシンプルな音は、彼女の本音であることを確実に伝えてくる。
バスケ以外でこんなに身体が熱くなるのか、 脈が狂うのか、 まさか自分にこんな症状がでるなんて。
怒濤の思考を理性総動員でまとめあげ、リアクション待ちの雅に笑いかけた。
「…少しの時間のはずなんだけどなー。なんかひっさしぶりな気分だわ。元気そうでよかった、これでも超心配したんだぜ?」
「反省しております…。心配かけてごめんね」
「いやいや、真ちゃんも雅ちゃんもこれくらいの自由度が丁度いいんだって。おかげさまで退屈しねーし」
悪戯っぽく笑ってやると、申し訳なさそうな顔が苦笑に代わる。 隣も感動の再会シーンは一段落したようで視線を感じるうえ、そろそろスルーもツラくなってきた事項に触れた。
「ところで雅ちゃん、その格好だけど…」
「…うん、」
雅もそれは自覚があるのか、やや気まずそうに視線を流してから母親とみわの方へ向き直る。 一拍置いて、がばりと腰を折った。
「お久しぶりです。この度は娘さんをお返しするのが遅くなってしまってすいません」
「あら、なんで謝るんですか。先日からお世話になりっぱなしで…本当にありがとうございます」
にこやかな母親に対して、申し訳なさそうに睫毛を伏せ気味に言葉を紡ぐ。 慎重に音を選んでは、ひとつひとつ丁寧に形にしているのが分かった。
「いえ…ひとりでいたみわちゃんを、結局連れ回すことになってしまって。手っ取り早く迷子センターにでも届けられたらよかったんですけど」
「…、」
「…、」
「みわ、たのしかったよ?」
自覚があるかないかは別にして、すかさずフォローにはいるこの子は非常に聡い部類なのだろう。
感動はするが、高尾の思考は休ませてもらえないらしい。 雅の先ほどの文章は嘘は言っていないが、説明不足もいいところだ。 これでは、本当に彼女がみわを連れ回したように聞こえてしまう。
みわは確かに現れた時はひとりだったが、攫って連れ回したのは逃亡中の着ぐるみのウサギである。 寧ろ彼女も被害者であり、全く非などあるはずがないのに。 もしや、自分の役割中の出来事だからと責任を感じているのか。
現場に居合わせた身としては口添えをしてやりたいが、雅にも何か考えがあるのだろう。 下手に言葉を挟んではジャマになる可能性が高い。
そして何より、わざわざウサギの格好でみわと行動をしていたのには恐らく理由が…、
『−今もめてんのはこっちの事情でな』
「…!」
不意に、高尾の中で大体全てが繋がった。 まさか、犯人のウサギをかばって全ての行動を自分がかぶるつもりだろうか。 刑事側がもめていたのもほぼほぼ、これが原因だろう。
どんな理由があったにしろ、犯人が刑事相手に取引をして、逃亡中に幼女と少女を人質にしてお騒がせをした事実は変わらないのだ。
これが誰のためになるのかはもはや分からない。 犯人にどんな背景があったのかも知らない。 しかし、どう転んでも彼女の利益にならないであろうことは明白だ。
−ってオイオイ、流石にそれはお人好しにも程があんだろ。
苦笑を通しこして、思わず苦虫をかみつぶしたような表情をのせてしまう。 そんな高尾の様子も視界には入っているのだろう。 母親がわずかに首を傾けて、みわに合わせて屈んでいた身体を起こした。
「感謝こそすれ、あなたに非があるとは思えないわ。娘も無事ですし、本当にありがとうございました。ほら、みわもちゃんとお礼言って?」
「ありがとうおねぇちゃん!」
「う…」
凛と言い切る母親に、ふわふわ満面笑顔の幼児。 二人のアタックには、色々考えていたらしい雅も折れるほかなかったらしい。 暫く唸っていたが、観念したように吹き出す。
「…はい、こちらこそ」
◇
いつかの建物の中、暗闇内で2つの影がうごめいた。
「…わがまますいませんでした。ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げつつ、ウサギの着ぐるみを静かに差し出す。 少女からそれを受け取った男は、その強面に似合わぬ顔で目尻を下げた。
「いやぁなに、こっちこそ色々と世話かけちまったな嬢ちゃん。まさか娘が迷子になってるとはなあ」
ハハハと困ったように首をかく男は、完全に父親の顔だ。
雅がミッションの失敗を危惧して立ち尽くしていたときに奇跡的に通りがかってくれたのは、彼だった。 娘へのお土産を頼んだ少女と娘とのツーショットとなれば、思わず雅の肩に手を置いてしまったのも頷ける。 雅は園内のウサギは‘’おじさん”だけだと認識しているため、その姿を見た瞬間に彼だと察した。
ウサギの登場に目を輝かせるみわと、自分の肩に手を置き固まっているウサギを見比べる。 ちなみに彼の場合は、待ち合わせ時間に遅れてしまい例のお土産を受け取れなかったことを雅に謝罪したかっただけなのだが、みわがいる手前どう動こうか迷っていた。
しかし勘違いにより、もうすっかり彼にお土産を渡したつもりでいる雅がそんな葛藤をくみ取れるはずもなく。
ーおじさんってば、さっき自分から別れたばっかりなのに何か言い忘れかな? でも今はあまり構っている余裕が…、 待てよその手があったか!
すさまじい思考の大洪水の中、不意に光が差した。 窮地に追い込まれていた雅がたたき出した結論が、『ウサギの着ぐるみを借りて、みわを送り届けること』だった。
かくれんぼということは、要は姿が確認できなければいいわけだ。 認識されなければ、恐らく見つかったことにはならない。 みわを送り届けてしまえば、あとは高尾だけを連れ出して正体を明かせば解決である。
なにこれ名案!
頭上で電球を輝かせた雅は、すぐにウサギに交渉を持ちかけた。 もちろん、みわから少し距離をとってだ。
「すいませんおじさん、ちょっとお願いがあります」
「そりゃ構わんがな…お嬢ちゃん、ありゃわっちの娘だ」
「…えっと?存じておりますが…、」
とんでもなく今更だな。
娘の可愛さあまりに、また自分との関係を疑われていると感じたのだろうか。 思わず目を丸くしてからクスリと微笑む。
「みわちゃん、優しいですよ。おじさんそっくりじゃないですか」
「お…おお、そうかい。まあな。そんなこと言ってくれるのは…さとみくらいだと思っていたんだがなあ」
「ああ、奥さんも美人さんでしたね」
「ったく嬢ちゃんには敵わねぇや。で、頼みってのはなんだい」
照れているのだろう。 ガシガシと後頭部をひっかくウサギが、コキリと首を鳴らした。 今ほど彼がウサギの姿でよかったと実感したことはない。
少し遠くを見て笑いながら、待ってましたとばかりに耳打ちする。
「そのウサギの着ぐるみ、少しだけ貸していただけませんか?」
「着ぐるみをかい。ククッ、そりゃまた変わった頼みだな。聞くのは野暮かもしんねぇが、どうしたことだ」
「!えっと、その…」
しまった、理由を考えてなかった…!
確かに、女子高生がいきなり着ぐるみを着たいだなんて、理由が気にならない方がおかしい。 そのまま理由を言うわけにはいかないし、どうしたものか。 疲労で寝込みかけの脳をフル回転したが、こんな短期間でいい案が思い付くわけもなく。
とりあえず、つなぎで状況説明にはいった。
「ー実は、みわちゃんのお母さんが今、私の連れといると思うのですが」
「なるほどなあ、そういう流れで嬢ちゃんとみわが一緒にいたわけだ」
「理解早くて助かりますが何故?まあそういうことなんですが、その…ある事情で連れには姿を見られたくないといいますか…、」
「あん?連れって、あの彼氏じゃねぇのか。なんだケンカでもしたんかい」
「いえ、ケンカではなく…」
少々心配そうな色が混じる声に、訳もなく焦ってしまう。
こんなことに親身になってくれるだなんて、見た目が恐いだけで本当に心根の優しい人なんだなあ。 なんて失礼極まりない感想が紛れ込むが、雅が返答に迷っているうちに、勝手に面白おかしく解釈が始まったらしい。
フンフンと首を縦に揺らしたウサギがニヤリと口角を上げた気配がした。
「ははあ、そういうことかい。彼氏の愛を確かめたいからウサギになりたいとそういうことだな!」
「あれちょっと待ってくださいね。何がどうしてそうなった」
「いいやいや照れなくてもいいってことよ。わっちもさとみによく試されたっけなあ。本当に好きならどんな姿形でも分かるもんだってな」
「すいません素敵な想い出とても興味があるのですが浸るのそこそこに現実に戻ってきてもらえますでしょうか」
「あー若いっていいねぇ。そういうことならいいぜ、存分に彼氏の愛情を試してこいや」
「…あ、…はい」
「もし気付いてもらえなくても、わっちが彼氏に一発喝入れてやるからなぁ。落ち込むんじゃねーぞ嬢ちゃん」
「…、あ…、うん、はい。ありがとうございます」
そしてごめんね高尾くん、修正無理だった。
もうそれでいいやと最終的には流したが、ウサギの着ぐるみは無事に借りられた。 みわも着替えて出てきた雅に大喜びだったし、幸いにもイベント参加者に絡まれることもなく、結果オーライだ。
実は着替え最中に着信には気が付いたが、ルールにより連絡は無効になってしまうらしいため、念のため泣く泣くスルーした。 甘えてばかりで申し訳ないが、彼ならきっと分かってくれるだろう。
その後はトントンと事は進み、何より、雅が行動するより先に気付いてくれた高尾に感動が隠せなかったのは言うまでもない。
「…え、雅ちゃん?」
視線が絡むなり、驚きに満ちた表情で空気を震わせた高尾。 彼の音が形になると同時に、一瞬時が止まった。 着ぐるみの中で確認した、胸ポケットからの微かな振動と青色の発色。
ちょっとおじさんの言っていた意味分かった気がする…! 高尾くんキミは女神か、好き!
積み重ね重ねてきた苦労の分、嬉しさが一気に膨張爆発した。 喜びのあまり彼に少々変態チックな印象を与えてしまったかも知れないが、今は気にしないことにする。
それよりも、次の課題はこの状況をどう説明するか、だった。
みわと移動中も考えていたが、恐らく母親には一連の流れは伝わっていることだろう。 万が一ぼやかされていたとしても、不安でいっぱいのはずだ。 変にトラウマになって、みわが遊園地に連れてきてもらえなくなるのもかわいそうである。
彼女がどこまで旦那のことを理解しているかは不明だが、娘を連れ去ったのが彼だとバレれば、夫婦間でケンカになるかもしれない。
これはもういっそのこと全部すっ飛ばして、『自分がみわを連れて行ったウサギ』として一緒にいたことにした方が、引っくるめてまあるく収まるのではないか。 一度面識のある女子高生なら、母親からしてもまだホッとする対象だろう。 それに加えて、事を熟知している高尾に対しても、「母親を安心させるため」ならばウサギの着ぐるみをまとっていることに理由がつけられる。
自分のために他者をダシにするようで心にひっかかるものはあるが、この際偽善者でもなんでもいいのだ。 そして、台詞的には嘘はついていない。
よく考えきった私!
高尾がややしぶい顔をしたのにはドキリとしたが、母親からもいい印象で終われたようだし、これまた結果オーライだ。 二人と別れてすぐ、高尾にはもう少しだけその場で待ってもらうようにお願いして、現在に至る。
過酷な任務だった…。
走馬灯のように押し寄せる怒涛の想い出にホロホロしていると、頭に大きな手が乗った。
「まあなんにせよ、また娘が世話になった。嬢ちゃんとは縁もありそうだ。これからもいい関係を続けたいもんだねえ」
「こちらこそ、助かりました。喜んで」
ニカリと豪快に歯を見せる男に、雅も照れくさそうにはにかむ。
「あ、すいません。待たせているのでそろそろ…」
「ああ、彼氏と仲良くな」
「だからそういうのじゃなくて」
「おう、その様子だと彼氏は合格だったんだろ?あれはいい男だぜ、わっちが保証してもいい」
「ハイ安定の!…そうですね、それに関しては私もそう思います」
高尾君、ハイスペックすぎだし女神だし。
彼だからこそ苦労したミッションだったとも言えるが、彼でなければこの結果はなかっただろう。 気のいい友人に全力で謝罪と感謝を伝えるために、踵を返した。 そんな彼女は、高尾との会話のシミュレーションに全力だったため、気が付かなかった。
「…ん?なんだい…、!こりゃまた粋なもん選んでくれだもんだ」
着ぐるみを脱ぐ際に、肩掛け鞄から長靴をはいた猫キーホルダーが外れてしまっていたことに。 勘違いによる穴を、都合よく埋めてしまったことに。
娘を想って双眼を細めた男の手の中で、チェーンが軽やかに音をたてた。
(あとは高尾君への説明だけど…どうしようか)
対象者:高尾和成 現状:ミッションクリア ミッション数:11 成功:10 失敗:1
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