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 とくん、どくん。

 お互いの脈打ちが認識できるような距離で、雅達は息を潜めていた。
 コンクリートの壁に背中を密着させながら辺りを伺う黒子は、微かに眉をハの字に下げる。



「…困りました、思ったより人数が多いです」

「みたいだね」



 うーん、参った。
 
 まさかの不測事態だ。
 用意周到だった黒子のお陰で一時凌ぎは出来ているが、それも時間の問題だろう。
 彼も同じ意見らしく、雅を庇う形で背中と後頭部に回している腕に、僅かに力がこもった。



「暫くは大丈夫だと思いますけど、応援が来るまでにはまだかかりますね」

「うん、最低でも五分はかかるかなあ」

「…ボクとしては当たり前になってきたこの感覚が怖いです」

「……あ、うん確かに」



 普通なら、どんなに速くても連絡から小一時間はかかるであろう対応。
 それの最低ラインが十二分の一であることが、当たり前のようになっている。
 改めて、指揮官を任せられている赤司の能力に対する尊敬と畏怖を脳に浸透させた。
 
 それにしても、

 チラリと上目遣いで視線を流す。
 黒子と赤司は他のメンバーよりも頭の位置が近いため、比較的首が楽だ。
 そんな失礼にあたるかもしれない思考回路を繋げながら頭を傾けていると、ふと、視線が出会う。

 感情の読みにくい、しかし愛嬌たっぷりの大きな瞳が雅を映し出した。



「−心配ですか?」



 やや弛められた口元と雰囲気に、心地良さそうに睫毛を下ろす。



「…ううん、全然」



 そう、こんな状態になっているにも関わらず、不安など一切なかった。

 傍にいるのは、バトルに絶対の勝利を確信できる二人でも、隙のない作戦を組み立てる二人でも、絶対的センスを誇る彼でもない。
 接触していなければ、護られているこちらが見失ってしまいそうな、儚い存在感の彼だ。
 しかし、主張し合う二つの鼓動は、変わらず落ち着いたリズムを刻んでいる。

 自然体の雅に嬉しそうに瞬いた黒子は、ゆったりと焦点を移した。



「よかったです。信じていて下さい」



 淡い空色の髪が揺れる。
 背中への温度はそのままに、片腕のぬくもりが消えた。
 いつの間にやら黒子の指先に弄ばれていた小石が、これから彼が行動を起こすことを示している。



「−どうやら時間切れみたいですね。…ちょっと無茶します。ボクから離れないで下さい」



 先ほどまでの柔らかな空気から一変。
 どこまでも真っ直ぐな真剣な視線に、密やかに笑みを零した。







ほんわり温度は頬崩し


(知ってるよ、誰よりも努力家なのも、何があっても護り通してくれることも)
(お仕事以前に、大切なんです。一個人として)


準備はいいかい、いちに、さん。