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 −シャレにならない。


 物陰から外の様子を覗き見た雅は、あからさまに顔をしかめた。
 明らかに敵と断言できる人影が、ざっと見積もっても十以上。
 これは暫く動けそうにもない。

 家に連絡をとっておくべきかと思案するが、上着のポケットを弄った指先は宙を掴んだ。
 携帯を車の中に放置してきたことを思い出して、数分前の自分に往復ビンタでもお見舞いしたい心境に陥る。



「…どうしよっか青峰」



 がっくりうなだれながら問いかけると、傍らの温度が気怠そうに空気を揺らした。



「おー、こりゃめんどそうだな」

「もう見るからに。一応聞くけど携帯とかは…」

「あー…置いてきたわ、部屋に

どうしよっか私



 期待?ええ初めからしてませんとも。

 思わず涙を呑んだ雅は、本格的に肩を落として葛藤する。
 この後は予定が入っている。
 相手は家としても個人としても大事な、重要人だ。
 すっぽかすわけにもいかない。

 いざとなったら強行突破でも…。
 無意識に力の入った指先から、見かけによらない洞察眼と解釈力で思考を読まれたらしかった。

 呆れたようなため息と共に、くしゃくしゃと髪を乱す温度が降ってくる。



「わ!?ちょ…、」

「−まあ、ダリーけどオマエに怪我されても困るか。うるせー奴も多いし」

「え、っまさか一人で行く気?」

「今更何言ってんだよ、主人護んのがボディガードだろ」

「いやいや、青峰が強いのは知ってるけど流石にこの数は…!あ、ほら、まだ相手が何持ってるかも分かってないし。赤司あたりが異変に気づいて応援寄越してくれるかもしれないし。せめてもう少し様子見てからでも…」



 必死に止めようとする雅に、柄にもなく緩く口元を崩した。
 雇われている身として、主人に尽くすのは当たり前。
 それなりのリスクも当然覚悟している。

 しかし、本日自分に任せられたこのお嬢様はそれを良しとはしないらしい。
 自分達の身体能力の高さを評価しながらも、身内として大切に扱ってくれる雅だからこそ、他の人間もベストを尽くして護ろうとするのだ。

 勿論、青峰も例外ではなかった。
 服の裾を捉える震える白い手首を掴むと、車の鍵を握らせる。
 
 流石に落とすとやべーからヨロシク。

 上着まで脱いで完全に戦闘モードに入っている彼に、再び手をのばした。



「青峰…!っぷ」

「ハイハイ、10分もかかんねーから心配すんなって。ちょっくら行ってくるわ、大人しく隠れてろよオジョーサマ」



 いきなりバサリと視界を覆った漆黒に、一瞬呼吸を忘れる。

 慌てて被せられた上着を頭からはぎ取ると、額に軽い衝撃。
 髪をぐしゃぐしゃにした上に今度はデコピンときた。

 呆気にとられる雅にニヤリと笑みをひとつ見せつけた青峰は、ヒラリと木箱を飛び越えた。







そんな私は傍観者


(護られてばかりで、見るのはいつだって貴方の後ろ姿)
(オマエは笑ってりゃそれで十分だ)


ういんたー、おいでまし。