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 ちゅんちゅん。

 典型的な朝を感じさせるさえずりに瞼を押し上げると、窓から差し込む白い光に瞳を細めた。
 何とも清々しい、晴れやかな日曜日だ。
 時計を見れば、いつもより針は進んでいる。
 折角の休日だ、もう少し微睡みの中で幸せを実感してもバチは当たらないだろう。

 隣に温度を求めた黄瀬だが、いつもそこにある筈の感触がないことが分かるなり、一気に意識を覚醒させた。



「…雅ちゃん?」



 慌てて上半身を起こすが、ベッド上に存在するのは己のみ。
 蛻の殻状態の空間にぱちりと睫毛を鳴らすと、のそのそとシーツから這い出る。

 落ち着かない。
 自分で言うのもアレだが、黄瀬は彼女にベタ惚れだった。
 自他共に認める愛妻家だ。

 朝、開眼一番で雅を視界に入れることが1日のスタートなのだ。
 あの艶やかな黒髪と、照れたようなはにかみを目にしないことには1日が始まらない。
 母親を求める子どものように、その長身を動かした。

 キッチン、洗面所、居間…。
 彼女がいそうなトップスリーを覗くが、独特のほんわりとした空気は感知できない。


 オレを置いてどこに行ったんスか…!


 軽くショックを受けつつ最終手段で携帯を握った瞬間に、カタリ。と幽かな物音を捉えた。
 振り向くと同時に待望の漆黒がちらつき、認識0、1秒と言っても過言ではないスピードでその体温を抱きしめる。



「いたー!」



 ぎゅう。

 その華奢な身体に腕を回すなり鼻腔を擽るシンプルな石鹸の香りに、胸が満たされた。
 ふぅ。
 とくりとくりと落ち着いてきた脈打ちを聴いて静かに息を吐き出す。

 腕の中の彼女は、特に驚いた様子もなく小さく瞬きを落とした。



「−あれ?おはよう涼君。起きてたんだね」



 控え目に肩に触れる指先に、喜々と金髪が揺れる。



「おはよ。探したッスよ雅ちゃん。今日は早かったんスね、いつも日曜日はゆっくりなのに…」

「うん、今日は目覚めがよかったから早めにゴミ出ししとこうかと思って」

「起こしてくれたらよかったのに」

「私は休める時に休んでほしいよ?」

「〜…!」



 きゅん。

 するりと鼓膜を刺激するソプラノは、相も変わらず黄瀬の心臓を喜ばせる形を並べていた。
 名残惜しみながらやんわりとその白い温度を手放すと、改めてその黒目がちな瞳を見つめ返す。

 と、そこで、彼女が既に外出着であることに気が付いた。
 ジーパンにパーカーというラフな格好を見慣れている身としては、スカートを履いているだけでもテンションがあがるというもの。


 超可愛いんスけど…!


 内心ガッツポーズであらぶりながらも、無理やり平常心を上書きして小柄な雅に合わせて屈む。



「あ、そうそう。今日は快晴みたいだしどっか行かない?休み合うの久しぶりッスよね」



 何という名案。

 現在もモデルとして活躍中の彼のファンであれば、瞬時に二言返事を期待できるであろう。
 キラキラと自慢の金髪にも負けないくらい瞳を輝かせる黄瀬に対し、雅の表情は曇った。
 申し訳なさそうに、眉がハの字に下げられる。



「ごめんね、今日はちょっと先約があって」

「へ?先、約…?」

「うん。結構前からの約束だから、外せない」

「え、それって女の子?女友達ッスよね!?めいちゃん、さきちゃん、ありさちゃん、かなちゃん、まきちゃん、さりなちゃん、あやみちゃん、まりんちゃん、るかちゃん!?」



 黄瀬の唇から流暢に流れ出し始めた、比較的よく会う女友達の名前に思わず圧されるが、よく覚えているなあと感心してしまう。
 とりあえず、相手が女友達であることだけは明確に伝えなければ、身動きとれそうにもない。

 言うまで家から出さないッスよ!なんて勢いの黄瀬に苦笑で返した。



「…職場のももちゃんだよ」

「何泊!?」

「んー、明日は普通に仕事だから日帰りだね」

「何時頃までッスか!?暗くなったら危ないし車で迎えに行くんで…あ、そもそも行きは!?ちょ、準備してくるから待ってて」



 ひとりで思考回路を疾走し、くるりと踵を返した黄瀬の腕を慌てて掴む。



「−涼君、流石に七時は待ち合わせとして早いと思う

「…………そうッスね」

「あと、ももちゃんが家まで送迎してくれるから大丈夫」

「…ハイ



 相変わらず自分の事になると物凄いパニクりようだ。
 うーん、愛されてるなあ。
 ほのぼのと口元が弛むのを自覚しながら、子犬のような視線に返事を返した。



「夕方までの約束だったけど、お昼には切り上げられると思うから帰ってくるね」



 その後映画でも行こ?

 ふんわりと細められた瞳の柔らかさに、左胸の高鳴りを聴く。
 今日も心臓は絶好調だ。



「っ〜待ってるッス!」

「うん」



 きゅう。

 再度回された腕とチラつく金色に、愛しそうに微笑んだ。







大好きだ?充分理解しています


(わたしだって、同じくらい好きだから)
(そりゃもう、何度抱き締めたって伝えきれないくらい)


ぎゅ、ぎゅぎゅう。