◇
ひょこりと顔を覗かせた雅は、探していた姿を見付けて声を弾ませた。
「あ、青峰発見ー。よくこんな寒いとこいるね」
「…んだよ、雅か」
「まあまあ、そんなつれないこと言わずに。折角だからアンケート協力してよ」
「アンケート?」
寝ころぶ彼の傍まで寄ると、気怠げな視線が向けられる。
それに満足げに歯を見せると、メモ帳を片手にボールペンをくるりと回した。
「そ。バレンタイン近いからねー。チョコレート、今年はトリュフにしようか生チョコにしようか迷ってる」
「あ?チョコに種類とかあんのかよ。んなもん食えたら何でも一緒だろ」
「いやいや、女の子の張り切りをナメられては困ります。色々試行錯誤してるのよ」
「ほー。そういやさつきも騒いでたっけなあ」
「さっちゃんも勿論、張り切ってるからね」
熱心に雑誌やレシピを読みふける彼の幼なじみの姿を思い出し、笑みを零す。
自分の親友にもあたる桃井は、同性から見ても可愛い。
中学から一緒であるため、恋する彼女とのチョコレート作りは恒例行事と化していた。
頬を緩める雅に対し、何かを考えているのか。
少しの沈黙を作ったのち、青峰がどこか真剣な表情で口を開いた。
「…オイ雅」
「はーい?」
「テツとオレの為にも今年もさつきと作れよ」
「うん、任せて」
これには雅も同様の真面目さで返す。
桃井の料理の腕といえば、中々に大胆というか、個性的だ。
過去の失敗は繰り返すまい。
ぐっと親指を立ててみせると、メモ帳とペンをしまい込んだ。
予想はしていたが、やはり彼にはアンケートの意味はない。
「じゃ、サボリもほどほどにね」
くるりと踵を返すと、意外にも反応があった。
いつの間にか閉じられていた双眼が再び雅を捉える。
「もう行くのかよ」
「ウサギなんて柄じゃないでしょアナタは。他の人たちにもアンケートとってこないと」
「…あ、一個言い忘れてたことあったわ」
ちょいちょいと手招きをされれば、近づく他になかった。
何だ珍しい。
首を傾げつつ、仰向け状態の青峰に合わせて屈み込む。
「んー?なに」
彼の唇が薄く開いたのを確認して聞く体勢を整えるが、中々音が生まれなかった。
「…青峰?」
何か迷っているのだろうか。
それとも言いにくいことなのか。
視線は合うため、用があるのは確かなのだろう。
ここまでじらされると内容も気になってくる。
彼の言葉を聞き取ろうと、無意識のうちに身を乗り出していたらしい。
己の黒髪が肩から滑り落ち、青峰の頬を掠めた瞬間、
ぐい。
「っ、は!?ちょ、」
一瞬で、世界が変わる。
身体がもの凄い勢いで引っ張られ、引き寄せられた。
そのままいけば間違いなく顔ごとお見合いコースだったが、ありったけの能力を駆使して、僅かにずらすことに成功する。
地面に叩きつけた手の平が地味に痛い。
「…オマエ、意外に反射神経いいじゃねーか」
チッと微かな舌打ちが鼓膜を揺らし、思わず眼光鋭く睨み返した。
「危ないでしょが!なに考えて…」
しかし近すぎるその距離に、途中で固まる。
ぱくぱくと金魚のように口を開閉していると、にやりと彼の口角が上がった。
「−今年は他の奴と同じ形のもんは食わねーから」
そこんとこよろしく。
触れた先から熱
(気持ちが大体同じなのは知ってるけど順序ってもんがある!)
(行動で示した方が手っ取り早いこともあんだよ)
甘いタイ、あまえたい?
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