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 ひょこりと顔を覗かせた雅は、探していた姿を見付けて声を弾ませた。



「あ、青峰発見ー。よくこんな寒いとこいるね」

「…んだよ、雅か」

「まあまあ、そんなつれないこと言わずに。折角だからアンケート協力してよ」

「アンケート?」



 寝ころぶ彼の傍まで寄ると、気怠げな視線が向けられる。
 それに満足げに歯を見せると、メモ帳を片手にボールペンをくるりと回した。



「そ。バレンタイン近いからねー。チョコレート、今年はトリュフにしようか生チョコにしようか迷ってる」

「あ?チョコに種類とかあんのかよ。んなもん食えたら何でも一緒だろ」

「いやいや、女の子の張り切りをナメられては困ります。色々試行錯誤してるのよ」

「ほー。そういやさつきも騒いでたっけなあ」

「さっちゃんも勿論、張り切ってるからね」



 熱心に雑誌やレシピを読みふける彼の幼なじみの姿を思い出し、笑みを零す。
 自分の親友にもあたる桃井は、同性から見ても可愛い。
 中学から一緒であるため、恋する彼女とのチョコレート作りは恒例行事と化していた。

 頬を緩める雅に対し、何かを考えているのか。
 少しの沈黙を作ったのち、青峰がどこか真剣な表情で口を開いた。



「…オイ雅」

「はーい?」

「テツとオレの為にも今年もさつきと作れよ」

うん、任せて



 これには雅も同様の真面目さで返す。
 桃井の料理の腕といえば、中々に大胆というか、個性的だ。
 過去の失敗は繰り返すまい。

 ぐっと親指を立ててみせると、メモ帳とペンをしまい込んだ。
 予想はしていたが、やはり彼にはアンケートの意味はない。



「じゃ、サボリもほどほどにね」



 くるりと踵を返すと、意外にも反応があった。
 いつの間にか閉じられていた双眼が再び雅を捉える。



「もう行くのかよ」

「ウサギなんて柄じゃないでしょアナタは。他の人たちにもアンケートとってこないと」

「…あ、一個言い忘れてたことあったわ」



 ちょいちょいと手招きをされれば、近づく他になかった。

 何だ珍しい。

 首を傾げつつ、仰向け状態の青峰に合わせて屈み込む。



「んー?なに」



 彼の唇が薄く開いたのを確認して聞く体勢を整えるが、中々音が生まれなかった。



「…青峰?」



 何か迷っているのだろうか。
 それとも言いにくいことなのか。
 視線は合うため、用があるのは確かなのだろう。

 ここまでじらされると内容も気になってくる。
 彼の言葉を聞き取ろうと、無意識のうちに身を乗り出していたらしい。

 己の黒髪が肩から滑り落ち、青峰の頬を掠めた瞬間、


 ぐい。



「っ、は!?ちょ、」



 一瞬で、世界が変わる。
 身体がもの凄い勢いで引っ張られ、引き寄せられた。

 そのままいけば間違いなく顔ごとお見合いコースだったが、ありったけの能力を駆使して、僅かにずらすことに成功する。
 地面に叩きつけた手の平が地味に痛い。



「…オマエ、意外に反射神経いいじゃねーか」



 チッと微かな舌打ちが鼓膜を揺らし、思わず眼光鋭く睨み返した。



「危ないでしょが!なに考えて…」



 しかし近すぎるその距離に、途中で固まる。
 ぱくぱくと金魚のように口を開閉していると、にやりと彼の口角が上がった。



「−今年は他の奴と同じ形のもんは食わねーから」



 そこんとこよろしく。







触れた先から熱


(気持ちが大体同じなのは知ってるけど順序ってもんがある!)
(行動で示した方が手っ取り早いこともあんだよ)


甘いタイ、あまえたい?