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 辺りを見渡して、人混みの中お目当ての姿を探した。
 耳に当てた機体から届く声に従って首を回す。



『−もう少し右だよ。…おっと、それは行き過ぎかな』



 視界いっぱいを三往復したあたりで、手を振る姿を捉えた。
 丁寧すぎるナビから察するに、あちらはかなり早くからこちらを見つけていたようだ。
 相変わらずスマートだと苦笑いを零して、人を避けながら駆け寄る。



「…竜!」

「雅、久しぶり」



 相変わらずの涼しげな微笑みに対し、軽く両手を合わせた。

 彼のことだ。
 こんなところでひとり待ちぼうけでは、何組かの女性から声がかかったことだろう。



「ごめんね、だいぶ待った?」

「全然。オレが早く来すぎたんだ。久しぶりだから嬉しくてね」

「私も楽しみにしてたから結構早めに出たつもりだったんだけど、思ったより遅くなっちゃったよ。…虎は相変わらずみたいだね」



 待ち合わせまであと五分。

 ちらりと視線を迷わせて、まだ姿の見えないもう一人の友人に眉を寄せつつ笑った。
 恐らくぎりぎりか、少し遅れるか。
 慌てふためく姿を想像して、どんな言葉をかけてやろうかと選択肢を作成し始める。

 彼との絡みは、正直一番楽しい。
 思わず緩んだ頬を指先で締め直すが、ふと沈黙に違和感を感じて顔を挙げた。

 いつもの優しさに少しの真剣を混ぜたような視線に、どきりとする。



「…竜、どうし−」

「今日はタイガは来ないよ」

「え?」



 被された台詞に、数回瞬いた。
 といっても、言葉自体は耳をすり抜ける。
 それよりも、言葉を遮られたことが衝撃だった。

 普段から冷静で人当たりのいい彼は、どんな相手の言い分にも最後まで耳を傾ける。
 付き合いの長い自分であれば、尚更だ。
 今までだって、どれだけ長くても内容を問わず話を聞いてくれていた。
 彼には珍しい余裕のなさを感じて、続く音が出ない。

 戸惑いが伝わったのだろう。

 打って変わって困ったように口元を緩めた氷室が、右手をとってきた。
 あまり触れられたことはないため一瞬ためらうが、これは抵抗してはいけない気がする。
 自分の勘を信じて、流れのまま手を引かれて歩き出した。

 繋がれた温度に視線を奪われていると、ため息混じりに空気が揺れる。
 今までになかった雰囲気に恐怖して表情は確認できないが、これはきっと笑いの気配だ。



「−やっぱり、オレからの誘いは“三人で”のイメージが抜けていないみたいだな」

「…今日は違うってこと?」



 思わず見上げて、次の瞬間には後悔した。

 先ほどまでの空気はどこへいったのか。
 怖いくらいの綺麗な笑みが至近距離で勝ち誇る。



「今回声をかけたのは君だけだよ。アメリカにいた分の埋め合わせはさせてもらわないとね」



 フェアじゃないだろ?

 自分の右手と絡んだ左手を見せつけるように掲げられて、何かが爆発した。







手加減なんてしてられない

(生憎、周りが思ってくれているほど余裕のある人間じゃないんだ)
(なんなのこんなのってずるい)


ペース巻き込まれ注意報、のち警報。




※呼び方について。辰→竜、タイガ→タイガー→虎。