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 じわりと額に汗が滲む。
 大きくなった玉がたまらず溢れ、頬を伝った。
 降り注ぐ日の光は遮る物もなく、全身の肌を、細胞を通して浸透する。



「…あつ」



 ベンチに座って数分もたたずにこの様だ。
 いくら体質的なものといっても、もう少し耐えてくれてもいいだろう。
 水分を入れればまだマシになるだろうか。

 己の身体に毒づきながら自販機を目指そうと腰をあげる。
 正確には、あげかけた。

 しかし、急激に真っ暗になった意識に立ちくらみだと気付いた時には、もう視界は傾いていた。



「!っ…、」



 ぽすん。

 予想に反してどこか間抜けな効果音。
 痛みではなく圧迫感、無機質ではなく体温。
 イメージと矛盾だらけの現実に、情報を統合する。

 結果を出すと同時に、答えが突きつけられた。



「−全く、危なっかしいね。いくら耐性があるといってもこんな直射日光の下は辛いんじゃないのか」

「…こんにちは、赤司くん」



 少し困ったような、宥めるような色を混ぜた声を聴いてしまえば、彼の表情を知るのは容易い。
 顔をあげると、想像に違わない感情と鉢合わせた。

 意識を乗っ取る赤色が眩しくて、思わず瞳を細める。
 焦がれてじらされて時には怖いくらい、大好きな色だ。



「今日も素敵に無敵だね。ずいぶん涼しげだけど、キミもちゃんと暑いのかな」

「暑いよ。ただ、オレの場合は暑いのはそこまで苦手ではないからね。顔にはあまり出ないかもしれないな」

「そっか。わたしは夏はとっても苦手」

「当たり前だろう。こうして会えるのは嬉しいが、キミが倒れては元も子もないよ」

「ごもっとも。でも昔に比べたらだいぶ強くなったし、これくらいなら大丈夫…−、」



 ダイブしていた彼の胸に両手を添えて距離をとろうとするが、チカチカはじけた目元の花火に再び額を押し付ける。
 呼吸が浅い。

 そのまま動けずにいると、後頭部に温度が滑った。



「オレに対しては強がりは必要ない。話は後で、とりあえず日陰に移動しようか」

「ん、」



 歩けるか?

 様子を窺う赤司に合わせて足を出そうと試みるが、身体はもはや他人の物のようだ。
 それを感じ取ったのか、そっと誘導され後ろのベンチに押し込まれる。
 あまりに自然な流れに、自分が腰掛けたのにも理解が遅れた。



「雅」



 穏やかに吸収される音に、ゆるりと焦点を合わせる。
 隣に腰を落ち着けた彼が、少し首を傾けて微笑んだ。



「ふらつくようなら今この場で吸ってくれ」



 あまりにあっけらかんとした申し出に、柄にもなく呆けた。
 いや、惚けたのかもしれない。



「えっと…さすがに目立つかな。わたしにも一応恥じらいはありますが」

「いや問題ないよ。今は幸いなことに人はほとんどいないし、」



 一拍置いて、妙に艶やかな笑みが脳裏にこびりつく。



「−こうすれば周りからは見えない」



 ふわりと引き寄せられ、死角側の彼の首筋へ唇が触れた。







いつか何かが爆発するだろう


(わたしこれでも冷静な部類なんだけど。この子の鉄の心臓、どうしてくれよう)
(案外、緊張はしているよ)


どくどく、流れるのは。