(04.違う。/一半)
もう、遅かった。 全ては終焉へと向かっていた。 彼と共に楽しく馬鹿騒ぎしたあの日々も、なにもかも。 誰のせいでこんなことになった? そう聞かれたら、答なんて一つしかない。 俺の、せいだ。
「好きだよ」
「あっそ」
「随分とそっけないなぁ」
「いつもだろ」
「‥‥そうだね。でも、」
「あ、やべっ‥‥‥今日あれの発売日じゃん!ごめん、帰るわ。また明日な」
「また、明日」
そう言って手を振った彼が、少しでもいつもと違うのだと気付けたら良かったのに。 俺は、この日を後悔することになる。
「さようならだね」
「はぁ?何言って、」
「転校することになったんだ」
「そん、なの‥‥‥聞いてない!」
「言おうとしたよ。でも、言えなかった」
「‥‥‥‥」
俺は気付いた。 彼は言えなかったのではなく、言わせてもらえなかったのだと。 無神経で馬鹿な俺のせいで。 嘘だ、嘘だ。涙が流れそうになるのを必死でこらえた。 転校したってまた会えるじゃないか、会えないくらい遠いところなのかよ、言いたいことがたくさん沸き上がってきた。 でも、言えない。自分の弱さをさらけ出すようで、どうしても出来なかった。
「悲しい?オレがいなくなったら」
「いなくなるって、大袈裟な」
「‥‥いなくなったら、悲しい?」
「別に、悲しく、ない」
「そっか、なら安心だな」
そう告げた彼の微笑みは、今まで見てきたどの笑顔よりも悲しいものだった。
次の日から、俺の隣に彼はいなくなった。いつもの定位置は、寂しくぽっかりと空いている。 それは俺の心も同様で、まるで穴が存在するかのように虚しく風が通り抜ける感覚。 あいつがいないだけで俺の毎日はこんなにも味気無いものになる。そう実感した。
夜、布団の中で泣いた。 彼の前では形にならなかった言葉達が、すらすらと口から飛び出す。好きだ、会いたい、おまえがいないと悲しい。 その言葉は全て、今となっては意味を成さないものばかりだった。
こんなの、違う。俺の望んでいたものとは違うんだ。
あの時素直に「悲しい」と言っていれば、全ては変わっていたの?
(090726)
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