(08.どうせ俺は/源半)
ピンポーン、玄関から響く音。 コップに入った野菜ジュースを一気に飲み干して、インターフォンの受話器を取り耳に充てる。
「はい」
「おはよう」
「待ってて、すぐ行くから!」
「急がなくていいぞ」
「‥‥急ぐ!」
ハンガーに掛かっている半袖のジップパーカーを羽織り、ジーパンのポケットに財布を突っ込む。 最後に鏡で確認すれば、いつもと変わらない、ごく一般のどこにでもいそうな男子中学生が映し出されていた。
「お待たせっ」
「よし、じゃあ行くか」
「うん」
車の助手席に座って、ちらりとミラー越しに彼の顔を見る。 かっこいいな、なんて思っていたら、鏡の向こうの彼と目が合ってしまった。 にこり、微笑まれたら、俺に逃げ場は残されていない。
(いつだっただろうか、憧れが恋に変わったのは)
いつの間にか走り出していた車の窓の景色は、猛スピードでスライドしていった。 まるで、俺の脳内のようだった。
「帰ろう、もう遅い」
「遅いって、まだ6時だけど」
「親御さんが心配するだろ?」
海に行きたい、という俺の我が儘に応えてくれた彼は、最後にこの海浜公園へと車を走らせた。 簡易ベンチに腰を下ろし、無言で海を眺めているという空間は、どこか物悲しく、それでいて妙にロマンチックだった。
「もう少しで、いいから」
「ここから戻るのに結構かかるんだ、今日は帰ろう。また連れてきてやる」
「すき、なんだ」
「‥‥‥知っている」
「前にも言ったけど。やっぱり、駄目?」
その問いに返答はなかった。 頭を撫でられる感触と、隣にいる人物が立ち上がる際に踏んだ砂利の擦れる音、そして静かに吹く潮風が、俺の五感を緩やかに刺激する。 手を差し出されて、再び帰ろうとだけ与えられた言葉。 その手を取らずに駆け出す俺に、彼はどんな表情をしているのだろうか。 ベンチから何メートルか離れたところで振り返り、叫ぶ。
「どうせ俺はガキだよ!」
海に沈んでゆく夕日に笑った。 夕日をバックにして困ったように笑った彼は、やはりかっこよかった。
(090816)
*** まさかの源半\(^o^)/ 源田は親戚設定、しかも大人… な、何がしたいのかしら私!
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