(夏花/一半)
「来年もまた、一緒に見れるといいな」
来年はオレが誘うよ、なんて。 それは何年後に現実になるのか。
「あ、もしもし」
『久しぶりだね、半田』
「‥‥本当にな」
『怒ってる?』
「怒って、ない」
蝉の声、祭客の喧騒、出店の客引き。全てが全て、前と同じなのに。 並んだ提灯に照らされた木の影に、ぽつりと座って携帯電話を手にする。一人でやってきた俺には、騒がしい祭の会場は虚しすぎた。花火大会が始まるまで、まだまだ時間がある。 毎年こうやって、一之瀬と電話をしながら花火を見るのも慣れてしまった。短いひと時、けれど一緒に打ち上がる花火を見ることができているような感覚。綺麗だな、と言うと、そうだねと返してくれる一之瀬の声に、毎年涙した。もっと話していたい、会いたい。そう言えない自分の臆病さが憎い。
「やっぱり忙しいのか?」
『うん、いろいろ立て込んじゃって。早く半田に会いたいなぁ』
「ばーか、ちゃんとやることやってから会いにこいよ」
『はははっ、わかってるさ!』
俺も、会いたいよ。一之瀬に、早く会いたい。 言えなかった言葉を、嚥下する。声はたまに聞くけれど、姿を見たのはいつが最後だろうか。大学生になった俺も、なんだかんだで忙しい。海の向こうの遠さをあらためて思い知った。 中学の夏、一之瀬と二人で見た花火。二人で見た、俺達だけの絶景ポイント。俺が教えたこの場所に、あの日以降二人が揃うことはなかった。
「花火、始まる」
『本当?オレも見たいな』
「‥‥見に来いよ」
『見に行きたい』
「‥‥‥」
『行きたいよ。半田の隣で、一緒に花火が見たい』
パンパァン、始まりの合図が鳴る。ひゅうう、どおん。一つめの花火が上がり、花開いた。込み上げる涙が、堪え切れない。 なら、見に来ればいいだろ。今すぐ、俺の隣に来て、一緒に。 花火に照らされた眼前は、やはり昔と変わらぬ光景だった。電話の向こうにいるはずの彼は、何も言わない。ただ、俺が馬鹿みたいに涙を流し、花火が上がる。
『半田、一緒に花火を見ないか?』
「‥‥えっ、何?聞こえない」
一之瀬の言葉は、花火の音に遮られて俺の耳まで届かなかった。返答はない。 彼は何を言ったのだろう。依然として携帯は黙ったままだ。耳に強く携帯を押し当てる。
「オレと一緒に、花火を見よう。半田」
振り返った先には、
夏花、あがる。
(約束は守れましたか?)
(100812)
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