稲妻sss | ナノ
 




(嘘の冗談の話/一半)








「それで、君はどうしたいの?」

がたり、片手を机についた一之瀬は、満面の笑みで言う。表情からは疑い知れない本音が、言葉の端々に感じ取れる。俺は、色々な感情がごちゃまぜになって、震える肩を抑えながら地面に目をやった。彼の視線に耐え切れなかった。無躾とも言えるその視線は、容赦なく俺の全身に刺さる。右手でズボンを固く握り締め、次の言葉を待った。一之瀬は何も発しない。
緊張、恐怖、期待。全てが織り混ざった不思議な感覚。はあ、と堪えきれず小さく息を吐いた瞬間、俺は自分の足元にもう一組の足を見た。思わず、一歩下がる。列ぶ机にぶつかった足が、行き場をなくして地に降りた。寄り掛かるように机に身を任せ、接近する一之瀬から逃れようと、体をよじる。だが、それは許されなかった。手首を取られ、逃げることは不可能となる。渾身の力で振りほどけば、どうにかなったかもしれない。しかし、そうはしなかった。できなかった。

「ねえ、半田‥‥君は、何を望んでいるのかな」

手首を握る手に、力が込められる。一之瀬の左手が、頬をさすった。優しい手つきとは裏腹に、俺の左手首は締め付けられていく。痛みに目をしかめる。ぐい、と手を引っ張られたと思えば、バランスを崩した所で上半身を机に押し付けられた。見下ろす形で、相変わらず爽やかに微笑む一之瀬。したたかに打ち付けた背中が、ひりひりと痛む。手首を握ったまま、俺の顔の横に手を置いた。まるで襲われているかのような体勢に、一筋冷や汗が伝う。

「こう、されたい?」

耳元で囁き、そのまま穴に舌を這わせる。直接響く粘り気のある水音に、背筋がぞわぞわとした。
「いっ、ちのせ‥‥やめっ、」
上がってしまう息に、羞恥を隠せない。衣替えしたばかりの半袖シャツ、そのボタンの隙間から、一之瀬の手が侵入する。脇腹を撫でられれば、びくりと腰が浮いてしまった。それを見てか、一之瀬は声を出して笑う。

「‥‥なんちゃって、冗談だよ!」

凄まじい勢いで身を引いた彼を、未だ抜けきらない体の熱を必死に隠して見遣る。先程までの雰囲気はどこへやら、別人のように元に戻った一之瀬は、鞄を肩にかけてにこりと笑った。また明日ね、などと言って手を振る彼に、俺は衣服を整えながら手を振り返す。緊張、はたまた恐怖からか、手が震えている。一之瀬、俺、お前のことが好きなんだ。この一文が、全ての原因だった。どうしてほしいの、こうされたいの?その問いに答えることはできなかった。俺の告白には応えず、あんなことをして、あげく冗談だよ、と言った彼の真意は、わからない。けれども、




(彼の瞳が本気だったことだけは、誰が見ても確かであった。)


(100617)