稲妻sss | ナノ
 




(電話の話/一半)








「‥‥もしもし」

『ああ、オレオレ。元気にしてる?』

「詐欺かよ!‥‥‥まだ完治には程遠いけど、とりあえず元気だよ」

『はははっ、ならいいんだ』

「そっちはどうなんだ?」

『一応順調かな。毎日特訓の日々だけど、そのお陰で皆強くなってきてる』

「そっか」

『‥‥‥大丈夫』

「え、何が?」

『すぐに追い付くさ!皆待ってるよ、早く良くなって一緒に、』

「わかってる」

『‥‥‥』

「皆が俺達のこと凄く心配してくれてるのも、待ってくれてるのも」

『だったら、』

「でもっ、どうしても」

『はん、だ‥‥?』

「辛いんだよ、苦しいんだよっ!おまえらと一緒に行けないこと、サッカーができないこと」

『オレも、辛いよ。苦しいよ』

「‥‥‥」

『あいたい』

「‥‥うん」

『さみしい』

「‥‥うん」

『辛い時は、泣いてもいいんだよ』

「‥‥‥うん、」





(泣かないと決めたのに、彼の優しい声音を聞くと涙が静かに零れ落ちた。病院の電話の前で声を殺して泣く俺を、受話器の向こうの彼は何も言わずに見守っていた。)



(090610)