稲妻 | ナノ
頂上にて、壊




※ある曲を元にして書いたものです。曲のイメージを損なってしまうかもしれませんが、それでも良い方はどうぞ。











「ねえ、アツヤ」

「僕たちはどうして双子に生まれたんだと思う?」

「きっとね、たくさんいた僕の中から、本当の僕を君が救い出してくれたからだよ」

「なのに、君だけがいなくなるなんて、そんなこと‥‥‥あるはずがない。いや、あってはいけないんだ」












幼い頃の夢を見た。とは言っても、僕らが幼い頃に体験したことが夢で再生されたわけじゃない。僕らは幼い姿だったけど、実際にそのような場所に行ったことはなかった。


なんとも気持ちが悪い光景だった。そこには僕が、いや『僕』と同じ姿形をした人間が大勢いた。真っ暗な空間の中でひしめき合う。吐き気がした。抜け出そうとして足を進めれば、手を取られる。振り向いてみると僕がいた。にっこりと笑った僕と同じ顔をした人間。そのすぐ隣で僕が僕の首を絞める。どれが本当の僕なんだろう、目の前にあるいびつな僕の顔を眺めて、そう思った。
瞬間、僕の手は何者かによって引ったくられた。乱暴に、でも温かい、僕はこの感覚を知っていた。ぐい、と引っ張られて体のバランスが崩れそうになる。数多の『僕』の間を縫うようにして進む彼。ぽっかりと空いた謎の空間で、僕と彼は対峙した。苦虫を噛み潰したみたいな顔で彼は立ち尽くす。


「あつや、」


ぎゅ、と握っていた手に力を込める。今まで僕の手をにぎりしめていたその手は、すでに覇気を無くしたかのように力を失っていた。もう一度、握り直す。すると、彼は僕の呼びかけには応えず、手をもいで去ろうとした。踵を返して走り去る様を見ていた僕は、彼の行動が理解できないだとかそんな考えなど頭のどこかに追いやり、ただもやもやした感情を心に浮かばせたのみで背中を追った。強く、それはもう彼が転倒するくらい強く、その背中を押す。ぐしゃり、音をたてて転んだ彼の小さな背中を、僕はどうしてか踏みつぶしていた。痛い、痛い。背中の痛みを訴える歪んだ顔が、頭の中のそれと重なる。かわいいな、と思った。泣きじゃくる彼がどうしようもなく可愛くて、足に体重をかける。ひっ、と喉が鳴ったと思ったら、彼は腕を顔に押し付けて、痛いと訴えるのも泣きじゃくるのも堪えてしまった。


「‥‥止めないでよ」


素早く正面に回って髪をわしづかみ、持ち上げる。涙でぐしゃぐしゃになった顔。痛い、と再び開いた口を、僕は強引に唇で塞いだ。引きそうになった彼の頭を両手で固定して、逃げる舌を追う。驚愕の色に染まった瞳が、至近距離で見開かれた。苦しい体勢からか、眉を寄せる。正直言って僕にもわからなかった。何がどうしてこうなったのか、いや、むしろどんな状態なのかすら、頭は理解していなかった。一度離れた唇をまたくっつけようとする。


「やめ、‥‥!」


押し返された体。起き上がろうとする彼を見ながら、僕はきっと面白くないなと感じていたのだろう。心の中の僕が、僕を蹴散らす。うるさいな、何がどうなってとか、それこそどうだっていいだろ、僕は僕で君は僕だ、黙って従え。僕は、彼が起き上がる前にその体を押し倒していた。


「言って。僕が好きなんだよね?」





僕は気がついた。全て、全部、端から端まで、僕なのだと。君を待つ僕の手を引いた『僕』も、僕なのだと。ひとつずつでしか存在できない『僕』は、『僕』を殺し続けていたのだと。そしてその中の一人である僕は、何の前触れもなく僕を殺した。それは『僕』が僕になった瞬間だった。











「どうかしてるよ、君の前にいると何故かその感情は小さくなって見えなくなってしまうんだ。胸の奥底ではこんなにも渦巻いていたっていうのに。なにか違う感情に飲み込まれて、溺れたみたいに」

「まあ、それももうなんの意味もなさないけれど」

「‥‥‥君の手を引いた僕は、たくさんいた『僕』の生き残りで、どこもかっこよくなくてバカだけど。今こうやって僕が君のことを想えてるのは多分、いや絶対君のおかげなんだろうね」

「だから、」











(きっとね、)



(100109)
by DECO*27/「心壊サミット」


***
神曲レイプとはこのことですね本当にすみませんでしたorz
「soundless〜」「proof〜」でも書いてるんですが進まない進まない。
短い上に意味不明になりましたが…まぁいいかな! ←
ちなみに、アツヤの台詞は一つも括弧内にはありません。一つも、です。
右脳で読んで下さい\(^o^)/