下剋上


部屋の灯を落としたところで、招かれざる客人に組み敷かれた。女のように叫び声を上げる位なら死んだ方がマシだった。叫び声を上げ助けを呼ぶ代わりに、相手を殺すつもりで抵抗した。
暗闇に慣れた目が相手の顔を捉え、それが酷く見知ったモノだと気付いてからも、僕の殺意は消えなかった。





下剋上





僕の身体は女のそれのように、男を受け入れるように出来ていると知った。
嬉しい発見とはとても言えず、出来るものなら全て記憶から消し去ってしまいたいと思う。
弟子に寝込みを襲われるなんて、笑い話にもなりはしない。

「……先生っ」

そう切なげに声をあげてから、以蔵は僕の中で絶頂に達した。ドクドクと自身を震わせ、吐き出される熱は何度目のものだろう。
これが若さと言うものかと、何もかもに自嘲した。
寝首を掻かれ、以蔵が飽きるまで抱かれ尽くした身体は、もはやボロ切れのようだった。始めのうちは抵抗を試みたが、途中からは彼の唇を噛む気力すら無くなっていた。
赤い血が未だに乾き切らない唇で、優しくも血生臭い口付けを落とされる。抱え込まれていた両足がようやく放され、空をさまよっていた足先が布団にたどり着く。ぐちゃと卑猥な音を立てて、抜かれたソレに胸を撫で下ろした。
そしてとろとろと、何度も何度も吐き出された精が、僕の中からゆっくりと溢れ出て行く。これほど気持ちの悪い感覚は初めてだ。
とっくに、精も魂も尽き果てていた。寝返りのひとつも打てそうに無かった。
虚ろな視線で以蔵を見上げると、その身体は爪痕やら歯形やらで出来た生傷だらけだった。あちらこちらから血が滲め出ている。幸いなことに僕の身体には傷ひとつ無く、情事をしめす赤い点が残されているだけだった。
じっとこちらを見下ろす以蔵の顔に、視線を向ける。その表情は、どちらが襲われたかわからなくなるようなものだった。

「一生お前を許さない」

そう吐き捨てると、以蔵は僕の身体に寄り添うようにして、優しく抱き締めてきた。まるで叱られた子供が助けを求め、母にすがるような仕草だった。
部屋の外からはしとしとと、降り続く雨音が鳴り響く。
朦朧とする意識の中、胸の上で彼が泣いているような気がした。
泣きたいのはこちらの方だと思った。不出来な弟子を持つと、こうも苦労しなければならないらしい。
ぼうっと天井を見つめていた僕の胸で、以蔵が弱々しい声で呟いた。
雨音にかきけされてしまいそうな、震えた声だった。

「貴方を愛しています」

その言葉にくれてやる返事は持ち合わせて居なかった。
僕は目蓋を閉じ、意識を手放すことにした。プツンと意識の糸が切れる瞬間、思い浮かんだ返事はそのまま闇に消えて行った。
それならそうと先に言えばいい。





20101115

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