この時代に生きる男の人達は、女子供の先をスタスタと歩いていくのが好きらしい。
それに気付いたのはここへ来てずいぶん経ってからの事だったけれど、思い返してみれば私はいつも彼らの背中を追っていた。
特に大久保さんと一緒に居る間なんて、背中を見ていた時間の方が長い気がする。かと言って顔を合わせれば憎まれ口を叩かれるので、ずっと背中を見ていた方が正解なのかもしれない。
女子供の先導を切って足早に歩き、歩調を合わせることもなければ、着いて来ているかと振り返ることもないその姿。
未来からやって来た私からすると、それは少しばかり冷たく映る。
けれど町中を見渡せば、それがこの時代では当然なのだと思い知らされて。すっかりそんな彼らに慣れてしまった頃に、私はふと気付く。
夕日の眩しさに目を細めつつ、帰路を共にする隣人の顔を見た。

「晋作さんは、隣に居てくれるのね」
「ん?」

私の唐突な言葉に、隣に並ぶ彼は不思議そうな顔をして足を止めた。それにつられて私も足を止める。
買出しの帰り道、晋作さんの両手には沢山の荷物が抱えられている。対照的に、私の手元には小さな包みがひとつ、ぶら下がっているだけだ。
この小さな荷物を手にするのにも、ずいぶんと苦労した。何せ晋作さんは、荷物を全部一人で持つと言って譲らなかったのだから。
変に意地っ張りなその人は、不思議そうな顔で小首を傾げて見せた。その仕草が可愛らしい。
独り言のつもりだった、先ほどの呟き。
まさか聞き取られるとは思っていなくて。むしろ、口に出すつもりも無かったものだから、私は途端に恥ずかしくなる。

「あ、えっと、ただの独り言」

取り繕うようにして答えると、晋作さんはそうかそうかと笑って見せた。けれど止まった足は、そのまま動こうとしない。

「なぁ、あやね」
「え?」
「俺はお前のことが好きだ」

私の呟きよりも、数段唐突な発言に、私は目を丸くする。何事かと晋作さんの顔を見ると、真っ直ぐな視線が私の顔に向けられた。

「だから、お前と並んで歩きたい!」

前にも言ったろ?と笑んでから、晋作さんは何事も無かったかのように歩き出した。
その言葉に私は、しばし呆ける。

「……どうして分かったのっ?」

顔が熱を帯びていくのを感じながら、私は彼の顔を覗き込んだ。すると晋作さんは再び立ち止まる。

「ん?聞きたいか?」
「う、うん!」
「なら耳を貸せ」

言われるがままに彼の口元に耳を寄せた。さて、何を言われるのだろうかと大人しく待っていると、言葉の変わりに軽いキスが降って来た。
思わず、触れられた頬を手で押さえる。ああ、もう。嘘つき。
恥ずかしさで顔が熱くなるのを指先で感じながら、私はじとっとした目で彼を睨んだ。
その視線を幸せそうな笑顔で受け止める晋作さんを見て、私は一生かなわないんだろうなと思う。

「惚れた女のことぐらい、分からないでどうする!」

人の行き交う町中で、彼は臆することなく笑顔で言い切った。そしてまた歩き出すも、その歩調はゆっくりとしていて。ああ、私に合わせてくれているのだなと感じた。
その優しさに甘えよう。
そうして私はまた、彼の隣を歩み始めた。
好きな人と並んで歩きたいのは、晋作さんだけじゃないんだから。





君のその頬に





20101007


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