「そうだ!未来の世界ではどうやって好きだと伝えるんだ?……ん?これは美味い!」

未来のお菓子を頬張りながら、晋作さんは笑顔を浮かべた。何が「そうだ!」なのかは知らないけど、もう少し、流れにそった質問とか思い浮かばなかったのかなと思う。
突飛な質問にむせそうになりながら、私はお茶を一口すすった。





愛してるの





合宿のためにたくさん詰めてきたお菓子。今ではその大半が、彼のお腹の中に詰まっている。今も口の中にはクッキーが詰まっていて、頬はハムスターのように膨れていた。

「えっと……普通に好きって言ったり、メールで伝えたり」
「めぇる!前にも聞いた事があるぞ!」

言葉を覚えたばかりの子供みたいに、キラキラとした顔をする。

「あ、でも。メールは手紙みたいなものだから、そんなに面白くないかも」
「ふむ、手紙か……」

そう簡単に答えると、彼は少しばかりつまらなさそうにしてみせた。いつだってこの調子で、晋作さんは面白さを重視する。そんなに未来に期待されたって、何もかもが面白いわけでもないんだけどな。
途端に大人しくなった彼を目の前に、何か興味を引くようなものがあったかなと、頭をフル回転させる。そしてラスト一本のポッキーを口にしたところで、ふと、ある行事が思い浮かんだ。

「あ、バレンタインデー!」

急に大きな声を出した私に、晋作さんは驚いてみせる。

「ばれんたいんでぃ?なんだそれは!強そうな名前だな……伴天連の類いか?」
「ばてれん?それはわかんないけど、バレンタインデーは女の子が好きな人にチョコレートを渡して告白する行事なの」

すると晋作さんは目を真ん丸にさせる。

「なんと!そんな行事があるとは、未来はとんでもない世界になってるようだな!」

満足げにうんうんと微笑む彼は、さらにこう続けた。

「ところでその、ちょこれぇととやらは、一体何なんだ?」
「お菓子なんだけど……あ、一応コレもチョコレートだよ」

私の口元で、半分ほどの長さになったポッキーを指差す。

「よし!俺も食べるぞ!」

そう言って、辺りに散らかったお菓子を楽しげに探し出す晋作さん。だけど、もちろん同じものは見当たらないようで。
他にもチョコレートを使ったお菓子が無いかなと私も探してみるも、すっかり空になった容器ばかりが目に付いた。

「……ごめんなさい、これが最後みたい」

口元で残りわずかになったポッキーを指差すと、晋作さんは肩を落とす。ガックリ、という言葉がぴったりな落ち込みようだった。
なんというか、すごく、食べにくい。
こんなに食べづらいなんて初めてだと思いながら、ポッキーに視線を向ける彼から目をそらした。
瞬間。両肩に手がかけられる。
あ。と思う暇も無く、身体がそちらに引き寄せられて、口元のそれが奪われた。
何が起きたか理解するまで三秒弱。

「あ、ああっ!」
「ふむ、甘いな」

顔を真っ赤にさせてわめくも、晋作さんはどこ吹く風でチョコレートを味わっている。恥ずかしいやら悔しいやら、私の心の中はぐちゃぐちゃである。

「どうしたんだい、大声なんて出して」

声を聞きつけたらしい桂さんが、廊下の方から顔を出した。

「おお小五郎か、いいところに来た!聞いてくれ、あやねからちょこれぇとを貰ったんだ!未来では好きな男にあげる物らしくてな!」
「へぇ、それはそれは」

自慢げに言い張る晋作さんの言葉に、桂さんはおかしそうに微笑みながら頷いた。どこまで分かっているのかは知らないけれど、私は恥ずかしさで居たたまれなくなる。

「ちっ、違うんです!あげてなんかいません!取られたと言うか、その、なんと言うか」
「何を言う!取ってなどいないだろうが。なぁ、あやね。ちょこれぇとは甘くて美味かったな」

私の言葉をさえぎるように、晋作さんは楽しげに笑った。

「おや、一緒に食べたのかい?」

その桂さんの意外そうな言葉に、私の心臓はびくっと跳ね上がる。
きっと、悪気も何も無いんだろうけれど、何も知らないんだろうけど、それにしたってその質問は、鋭すぎます。
黙り込んだ私を不思議そうに見つめる桂さん、それを見て晋作さんが楽しげに答えた。

「ああ!一緒に、な」

不意に向けられた視線のせいで、私はもう倒れそうだった。





20101005


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