夢のような過去から未来に戻って、早数ヶ月。
今でも全てが夢じゃなかったのかなんて、たまに思ってしまう。
それでも薄汚れたキーホルダーを見ると、一瞬であの日々が蘇ってきて、あれは現実だったんだと私に教えてくれる。そしてそれと同時に、私の胸は言い表せない感情でいっぱいになる。
けれど、愛しいのも苦しいのも、何もかもを忘れたくなくて。
だからあのキーホルダーは今、携帯の隣でストラップとして揺れている。
ふと、私と一緒に時代を駆けて行ったソレが、携帯の着信に合わせてカタカタと揺れた。
手に取り名前を確認すると、つきんと胸が痛んだ。

「もしもし、……岡田さん?」

メールじゃなくて、電話だなんて珍しい。
電話越しに、どこか聞き慣れた声が耳に入る。
その声音に懐かしさを覚えるも、「岡田さん」と話したのは、まだ数える程度しかない。
あの日、神社で話しかけてくれた彼は、至るところに「彼」の面影を残していた。その外見に、重ね見ない方が無理と言うもので、私は当初、困惑した。
けれど話をしていくうちに、岡田さんは岡田さんであって、全く違う別個の人間なんだと思い知った。そう分かった瞬間、私の心には風穴が空いたようで、涙が溢れた。
そんな私を見て戸惑いつつも、不器用ながらに慰めてくれたのもまた、彼だった。
少しずつではあるが、確実に、彼は私の心の隙間を埋めてくれた。
そんな出会いから、もう数ヶ月も経つのだなと、不思議に感じる。
そうぼんやりと考えていると、電話越しの、彼の言葉を聞き逃がしてしまった。

「あの、もう一回、今の聞いてもいい?」

何だかとても大切なことを言われたような気がして、私は慌てて聞き返す。すると彼は、どこか緊張が解けたかのように、小さく笑った。

『そっちの大学に行くことにした』

彼は、そんな意味の言葉を呟いた。そっちとは、私が住んでいる東京、のことだろう。その言葉にしばしほうけていると、彼は畳み掛けるように言葉を繋げた。

『だからまた、あの神社で会おう』

その言葉に、私の心は一気にあの日へと戻った。
初めて声をかけられた日、井戸の中に落ちてしまった時、名前で呼んでくれるようになったあの瞬間。数え切れない思い出。全てが走馬灯のようにかけ巡り、私の心をかき乱した。嵐のようなそれは、さんざん巡りに巡ったあとで、ようやくすとんとある場所で納まった。
それは、ちょうど、ぽっかりと胸に空いた風穴の位置。

「……どうして、東京に来るのに神社で会うの?」

私はくすくすと笑ってみせる。
電話越しでよかったと思う。笑いながらも、目尻に涙を浮かべている姿なんて、とても見せられない。
すると彼は、あれ、と自分で不思議がってみせる。私は涙をそっと拭った。

「約束して下さい。嘘ついたら、針千本です」

その言葉に彼は、どこか嬉しそうに笑ってから、わかったと答えた。
私は、何を恐れて、何を悲しみ、何を憂いていたのだろう。
こんなにも、あの人の心は、すぐ傍にあったと言うのに。
いくら生まれ変わっても、あなたの心が変わらないと言うのなら。
私はその度に、あなたの心に恋をする。





Flower of life.





2010101026


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