標
物陰に身を潜めてジルニトラの後尾に設置されている発動機への道を阻む敵から繰り出される攻撃
船と言う広いとは言えない通路で戦闘を繰り広げながら、ミクニ達は一つの発動機が設置されている部屋の前へと辿りつく
「ん?これって…」
「ミクニ?」
「あ!今行く」
周囲の敵を一掃し終えた時、ミクニは地面に臥している敵の傍に転がる物体を手に取る
雑音を鳴らすそれを手に持って弄っていれば、中へ入ろうとしていたプレザに声を掛けられ、それを持ったまま発動機の元へと向かった
「…すでに破壊されているようだな」
「無駄足じゃねぇかよ」
「こういうこともあるよ。アグリア」
「笑顔で言うんじゃねぇ!時間を無駄にしただろ!」
ようやく辿りついたと思えば、目の前の機械は停止しており多少煙をあげている
どうやら自分達の前に誰かが来たらしく、自分たちの行動が無駄になったことでアグリアは不服そうにしており、それに笑顔で「どんまい」と言えば、怒りの矛先はもちろんミクニに向けられた
「あはは。まぁ、ミラ達辺りが来たのかもね」
『…こちら右舷ブロック…敵勢力に突破され、発動機を…っ』
『おい!応答をしろ!…くそっ』
この仕業として思い当たる人物達を思い浮かべていれば、手元で声がする
突然知らない声が雑音混じりに響いたことでアグリアが目の前で驚いていたが気にせずに先程拾った物体を見た
「何なの?それ」
「通信機だよ」
「つうしんき?」
「離れた相手と話せる機械ってところ。それより、右舷にある発動機も行かなくていいみたいだし、私達はクルスニクの槍を目指そうか」
黒い機械――通信機を軽く説明し、もう一つの発動機も破壊されていると予測するとミクニ達は来た道を引き返して槍が設置されているであろう場所へ赴くために、中央広場へと急ぐ
封鎖線が張られていたと思わしき場所にはエレンピオス兵が倒れており、誰かが―――ミラ達が一足先に槍の元へと向かったということがわかる
(此処か…)
一枚の鉄扉の向こうから僅かに届いてくる争いの音を拾い、隣のガイアスと視線を交わして一度頷いた後、ミクニは踏み込んだ
「やれ!セルシウス!!」
「はい。マスター!」
巨大な兵器―――クルスニクの槍の前にて陣形を取り、目的のジランドと彼に従う大精霊とやり合うミラ達
彼女達がジランドとセルシウスを取り囲み優勢のように思わせるが、それを打ち砕くようにセルシウスが氷の刃を解き放とうとしていた
《竜炎閃》
ミクニの声が満ち、セルシウスとジランドの足元から激しく燃え上がる炎の竜が立ち昇る
「もうやめろ!セルシウス!」
「っ!!」
間一髪で避け、腕を掠める程度で済んだセルシウスだったが、その横へと接近したミクニが戻ってきた炎竜を纏わせて矢を放った
至近距離で放たれたそれはセルシウスの身体を溶かすように襲い、彼女は後方へと飛ばされる
「貴様の計画も此処までだ」
「ぐっ…!」
少し離れた先ではジランドが目前のミラとジュードに銃口を向けようとしていたが、その首筋には横から刃を添えられていた
ガイアス達まで加わり、周囲を取り囲まれたことで彼は苦虫を噛むような表情をして銃を下ろす
「ミクニ!ガイアス!」
「なんだか、ジュード君達で何とかなったみたいだね」
「そんなことないよ。加勢してくれなかったら危なかったよ」
ジュードらしい控えめな言葉に微笑みを向けた後、ミクニは床に膝を着くジランドに意識を注ぐ
「くそ…ようやく……ようやく源黒匣(オリジン)を生み出せたってのに……くそっ……」
(オリジン…)
半身の字とも言うべき名と同じフレーズにすっと瞳を細め、ミクニはジランドを見下ろした
「あんたの目的はせいぜい…向こうのやつらに恩売って、のし上がるためだろ…源霊匣とやらに何の意味があるっていうんだ」
「源霊匣は黒匣とは違い、精霊を消費せずに巨大な力を使役できる。だから、人の技術に溢れた、エレンピオスには必要なんだよ」
「精霊がいなくなり、マナが枯渇しているためにか?」
笑みはもちろん穏やかさを消し去った声に、ジランドの面が上がりミクニの射抜く瞳を仰ぐ
「ああ、そうだ。エレンピオスは精霊が減少したせいで…マナが枯渇し、消え行く運命の世界だ」
ジランドは吐き捨てるように認めると、あの黒匣に似た機械を取り出す
それはセルシウスを操るものであり、源霊匣とはこのことだろう
「そのためにセルシウスを…源霊匣を開発した、か…」
「っ、お前!何を…!?」
「お前たちのためにこのままセルシウスを道具としておくわけにも、殺すわけにはいかない。彼女は精霊へと戻す」
悪く言えば自身らが生き延びるために殺した精霊を支配しようとする道具があることに苛立ちを覚えつつ、ミクニはジランドから源霊匣を奪う
「…ミクニ」
「精霊に戻すだと…?」
いつもとは違い冷たい雰囲気を纏うミクニに事情を知らないジュード達が訝しんでいたがミクニは気にせずに荒い息遣いをしたセルシウスの顔を覗くように屈んだ
「…あなた、は…」
「…セルシウス…」
彼女の淡い牡丹色の瞳が持ち上がり、ミクニが映り込む
疲れ果てた表情の彼女は初めて会った時と同様にじっと見つめてきたがミクニが求める言葉を口にしてはくれなかった
その様子にミクニは彼女の名を呼び、撫でるようにその褐色の頬に触れる
「今、解放してあげるから」
彼女の前に魔核に似た石が嵌めこまれた源霊匣を置くと、ミクニは出現させた明星を通してマナを注ぐように念じる
「これ、クルスニクの槍を防いだ時と同じだ!」
「あの刃で精霊に戻すと言うの?」
槍の能力を防いだ時のようにミクニとセルシウスを中心に複雑な術式が広がる中、その光景を背後で佇む者たちは今から起ることに目を見張っていた
そして彼らが見守る中、淡い光がミクニを包むように現れ、光の粒子は青き刃を伝い精霊の化石へと流れ込む
光が満ちて行くように石は次第に発光しだすと、最後には眩い光を放って精霊の化石は機械諸共霧散した
「うわっ!!」
「一体、何が…」
「…光がセルシウスに集まってる…?」
膨張した光がセルシウスに集っていき、その光に身を委ねるようにセルシウスはいた
輝きが彼女の中に溶けていくように消えると、左目を覆う仮面のようなものがなくなった彼女の瞼が持ち上がり、ミクニを映そうとする
心臓が少し速まるのを感じながら、ミクニはセルシウスから視線を逸らさずに待った
「…私は…セルシウス……貴方は…っ」
先程とは違う己の意志が宿った瞳がミクニを捉えると揺れ、彼女は恐れるように、でも求めるようにミクニへと指を伸ばしてくる
それが目前で動きを止めると、ミクニはその手を握り、彼女に己の温もりを感じさせた
「…そん、な…幻ではないのか…っ…」
セルシウスの心地よい冷たさとミクニの人間としての体温が混じり合い、お互いが存在している事を証明する
「―――、ミクニ…」
微かに震えた声で大精霊が紡いだ響きに、ミクニは幸福を覚えた様に瞳を和らげ、己の星とこの星が同一という事実の証である彼女の存在を確かめた
提示された道標は愛しくも、辛く
―――***
「肌」であった文を分けてるだけです。
(H23.12.26)
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