「テルカ・リュミレース。それが私のいた世界の名です」


彼らは押し黙っていた

頭が狂っているとでも思っているかもしれない

それでもミクニはガイアスを見ていた


「確かにこの世界の名はリーゼ・マクシアと呼ばれている。だが、お前が異世界の者だと言う証拠があるのか?」

「生憎、私はこの世界がどのような仕組みであり、私の世界とどのように違うか知らない。ただ、私はこの国を見た事がない」


異世界という証なんて、どう体現すればいいかわからない

ただ、そう言うしかなかった


「ならば、質問を変えよう」


ガイアスが玉座から立ち上がり、ミクニへと少し近づいた

圧倒するようなその姿にミクニは怯むことなくいたが、次にガイアスが口にしてくる言葉に反応をする


「お前の世界の者は、そのように“人”の姿へと化けるのか?」

「それは…」


ミクニの脳裏にもう一つの自身の姿が通る

彼が言いたい事がわかり、納得した


(だから、連れて来たのか)


「なるほどね…やっぱ、見ていたんだ」

「街を襲った魔物がお前だという事を認めるのか?」


側近の確認にミクニは隠すことなく頷く


「すまない事をしたと思っている。正気を失っていたとは言え、人々を傷つけたのは事実…」


――― 申し訳ありません


ミクニは深く頭を下げる

幾分か静まり、ガイアスが顔を上げさせた


「幸いにも我が民には被害はなかった。それに謝らねばならないのは、俺の方であろう」

「え…――――」

「先に手を出したのは我が民。それにも関わらず、お前は民を傷つけないようにしてくれた」


瘴気に侵され、まともな意識でなくなった時、ミクニは暴れていた

己の自我を必死で保とうと、誰かを巻き込まないようにと


「暴れていたのは事実。普通なら、あの状態を放っておかないよ」

「だが、礼を言う」

「…君は、優しい人だね。ガイアス」

「…それが事実ならば、礼を言うのが道理なだけだ」


責めることはなく、礼を述べてきた王にミクニは笑んだ

このように判断してくれる人間などそうはいないだろう


「それでミクニよ。此処がお前にとって異世界と言うのなら、どのようにして戻る気だ?」

「来たのは不可抗力だったから…」


その先の言葉は出なかった

言葉を詰まらせたミクニの姿でこの国の二人は戻る術がないことを察する


「陛下は、お前を此処に置くつもりでおられる」

「けど私は、君らと違うんだよ」

「だからこそだ。お前が他の者の手に堕ちれば、我が民が傷つけられる恐れがある」


行く当てのないミクニに差し出された提案

それはありがたい申し出だったがミクニは一瞬惑う




「俺の元にいろ。ミクニ」





保護と言う名のだと感じていても



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