「―――海中に沈んだ槍を引き上げ、俺はエレンピオスへと侵攻する」


この国の王と彼に最も忠実な四象刃である3人しかいない部屋

プレザ達に告げられたのは、リーゼ・マクシアを燃料にしようとしたアルクノアの故郷であるエレンピオスに攻め入るということ

異界炉計画が続けられる可能性は高く、エレンピオスの脅威を知っているからには先手を打つべきなのは確かであり、それ自体にはプレザは驚かなかった

けれど、“槍”を使うという事実にプレザは瞳を見開く


(槍を…!)


彼女と同様に隣でアグリアが同じ心境なのか表情を変えていたが、ガイアスの傍らに控えるウィンガルは少しも心を乱した様子はなかった

恐らく、四象刃の中でも陛下と長い付き合いである彼は、事前に聞いていたのだとプレザは知る


(断界殻の壁を壊すには、槍が必要…けど)


槍を使うと言う陛下の意志にプレザは問いたくなった


ミクニの心はいいのですか?


精霊を想う存在である彼女の心を思うと、プレザは初めて主の考えに反論したくなる

けど、その言葉を決して口にすることはなかった


(……馬鹿ね、私)


一切の迷いを感じさせない凛々しき姿勢だが、民を想う彼にとってこれは苦渋の末の決断だったはず

また、精霊を想うミクニを悲しませることに対する罪悪感に挟まれて出した道だっただろう

陛下が民はもちろん、ミクニの心を軽んじるわけがないと言うのに、一瞬でも彼に問いを投げかけようとした自分が愚かに思えた


(陛下…貴方はその道を歩むのですね)

(…なら私は、貴方のために動くだけ)

(私は、陛下の四象刃なのだから)


自身に居場所を与え、国と言う重さをその身に背負う王

そして、愛する者に恨まれようともその道を受け入れた主のために、プレザは彼の命に従った




必要最低限のモノが置かれた小さな私室を訪れると空を眺める立ち姿が目に入る

部屋に訪問者が訪れた事で僅かに彼女の瞳が困惑したように見えたが、訪問者の姿に安堵したように彼女は笑みを浮かべた


「プレザ」

「一緒にお茶はどうかしら?ミクニ」

「うん」


その変化を気付かなかったようにプレザは運んできた茶と茶菓子を小さなテーブルの上に置き、腰を下ろす

少し遅れてミクニも向かい側に腰掛けて、以前と変わらないように居た

けれど、全てが以前のようではなく、彼女はこの数日の間、不用意に部屋を出ることはなかった

病のように人間の形を崩し、人ならざる存在ということを証明するような身体

幾ら当初より落ち着きを取り戻したとは言え、その名残があることでミクニは身を潜めるように過ごしていた

何も知らない者達からすれば、その姿は異質に映るだろう

それがわかっているからこそ、彼女がそうしているのはわかっているが、プレザは自分のことのように辛かった


“変、だよね…本当はこんな姿、誰にも見せたくなかったんだけど”


目を覚ましたミクニに会いに行った時、苦笑い混じりに彼女はそう言った

戯ける感じだったが、ミクニの過去を知った後だったためか、プレザには何処か他人のように気を遣っているように見えた


“変わってるかもしれないけど、変だなんて私は思わないわ”

“神秘的で綺麗じゃない”

“私は好きよ。人間の姿も、竜の姿も、その姿も―――”



本心のつもりだったが、自分達はミクニを実験にした人間とは違うと否定したくて必死だったのかもしれない

プレザの言葉を受けて、ミクニは微笑んでくれたが、本当はどう思っただろうか?

同情されていると感じさせてしまっただろうか?


「プレザ、何か考え事?」

「ううん。何でもないのよ」

「そっか」


本心はわかりはしなかったが、それでもこうして気を遣う素振りを無くし、以前と同様の笑みを向けてくれているだけで安心出来た

そして、深く追求することなく、再び茶菓子を口に含んだ子供のようなミクニの表情は、現状を忘れさせてくれる


「プレザ、美味しいのに食べないの?」

「あら?私の分まで食べる気かしら?ミクニって、案外欲深いのね」

「むっ。私は、ガイアスとアグリアとは違うんだけど」


手をつけられていない茶菓子を見つめるミクニだったが、プレザの言葉で眉を寄せる

顔に似合わずに甘党である王と、何だかんだでお菓子が好きな年齢であるアグリア

彼らのように他人のお菓子にまで手を伸ばさないよ、とため息を吐く相手にプレザは楽しそうな声を出す


「ふふ。冗談よ」

「プレザって、私を子供扱いしてる節があるよねー」

「そんなことないわよ。でもそう言うのは、子供っぽいって自覚しているのかしら」

「…もういいよ」


これ以上言うと弄ばれそうになることを感じ、ミクニは視線を逸らして茶を啜る


(本当、可愛いわね)


その様子に、本当に数百年生きているのか疑わしくなり、同時に可愛らしく思えた

声が途切れたことで沈黙が漂い出すが、悪いものではなく、頬が緩んだままプレザは茶菓子へと手を伸ばす


(こうやって食べていると、ミクニのお菓子が恋しいわ)


城仕えの者が用意した茶菓子も申し分なかったが、ずいぶん長い事食べていないミクニの味が恋しくなる


「あのさ、プレザ」


お菓子が好きというわけではないのに、かなりの腕前を持つ彼女の味に想いを馳せて茶菓子を食べ終えると、ミクニが見計らったように顔を向けた


「ありがとう。それにごめん」

「え?」

「私が部屋の外に出れないから、わざわざ毎日こうやって来させてるでしょ?それに対する感謝と謝罪」

「そんなこといいのよ。陛下の命令もあるけれど、私がしたかったことなんだから」


ニッと屈託ない笑みでこの数日間の礼を述べるミクニ

律儀な彼女らしいと言えばそれで終わるが、その行動に違和感を覚えた


「…でも、急にどうしたの?」


プレザの視線に相手の表情から無邪気さは消え、普段とは違う凛とした瞳となる


「私、マクスウェルの所に行くよ」


精霊の主であるマクスウェル

その存在に会いに行くと言うミクニの言葉でプレザは現実に戻される


「っ、危険よ!貴方、そんな身体じゃない…」

「身体ならもう安定してるから大丈夫だよ。それに…マクスウェルに会って、ミュゼの行動を止めさせないといけない」


カン・バルクを襲いに来たミュゼ

断界殻を知った者を殺すことを使命としている大精霊の異常なまでの行動

どういった理由にしろ、彼女の行動にマクスウェルが噛んでいるは確かだった

精霊の主であるマクスウェルも知っているのか、ミクニの声に遣る瀬無いものを感じた


「だとしても、陛下が心配なさるわ。どうしても行くと言うのなら、陛下が戻るまで待ってあげて」

「…本当はガイアスに言ってから行こうと考えてた。けど、そんな悠長に構えている場合じゃないから」


この身体では人目に触れられるわけにいかないのもあった

けれど、身体が落ち着きを取り戻してもすぐに行動を起こさなかったのは、自分を受け入れると言ってくれたガイアスにだけは告げるべきだとミクニは思っていたからだ

彼女は彼女なりに少しずつ陛下に向き合おうとしている姿勢を知ったプレザだったが、その胸には喜びはなかった

あったのは、ミクニを欺いているという罪悪感だった


「…あれ以来、ミュゼは此処には現れないけど、別の場所で断界殻を知っている人…ガイアスを襲ってるんでしょ?プレザ」


エレンピオスと言う問題に加え、王を失くしたラ・シュガル

ラ・シュガルの重鎮達は非常措置としてガイアスに国を委ね、ガイアスは彼らを受け入れた

それによりガイアスは、大半をラ・シュガルの地で過ごし、この城に戻れても滞在する時間は僅かだった

けれど原因はそれだけではなく、ミュゼにあった

ミュゼは断界殻を知っているミクニやプレザ達がいるカン・バルクを襲う事をやめたが、その代りにガイアスを必要以上に襲っていた

それによりガイアスは、民に被害を出さないためにも一カ所に留まる事を避けていた


「ミクニ…知っていたの?」


けれど、ミュゼに襲われていることをミクニに知らせてはいない

余計な心配をさせないためもあったが、何よりもミクニに負担になるような行動をさせないためのガイアスの考えだった

ガイアスの忙しさを知っていたためか、ミクニはガイアスについて詳しいことを聞くことはなかった

なのに、ミクニは知っている様子であり、プレザの胸はジワリと痛む


「うん、実はね」


まるで知らないふりをしていたことに申し訳ないと思っているように、ミクニは苦笑いを見せた


「だから私は、これ以上黙っておけない。ガイアスが民を守り…私を想ってくれているように、私はガイアスやプレザ達の助けになりたい」


その時のミクニは穏やかなものだったが、全ての民を背負うガイアスのような強い意志が宿っているように感じさせる


「ミクニ…貴方まさか……」


プレザから視線を外して窓の向こうを見つめるミクニに、人間のために責を背負うことを決めた少女の姿が重なる

それにより、繋がる事柄、導かれる問い


「私達のために―――」

「此処に居やがったか、ババア!!」


遠い、もう一つの世界を見ているような横顔に問おうとした言葉は途切れる

容赦なしに部屋へと入って来たのは、同じ四象刃であり、城へと待機させられているアグリアだった

思わずため息をつきたくなるが、少女の慌てたような空気が伝うことで、プレザは瞳を細める

アグリアは一度ミクニを確認すると、彼女に知らせないように言葉ではなく、その手に握りしめていた紙をプレザへと渡してきた

それはウィンガルから宛てられたモノであり、記された内容にプレザは言葉を失う

動揺の色が出てしまいそうになるが、必死にそれを隠そうとした


「…わかったわ。ミクニ、私達は行くわ」

「任務なんだね」

「ええ」


内容は口にしなかったが、プレザはそれを認めると、ミクニの顔を記憶するように瞳に映した後、彼女に背を向ける


「お願い…此処に居て、ミクニ」


それだけを言い残すと、プレザはミクニからの答えを待たずに部屋を出た

答えなど聞かずとも、わかっている

きっとミクニは、マクスウェルの元に向かうだろう

それがわかっているプレザは、一刻も早くウィンガルが指し示した場所へと向かうことにする

二・アケリアの奥地にある霊山―――精霊界へと続く道があるかもしれない場所へ

そう、彼女が捜す存在であるマクスウェルがいるであろう地に


―――自分を犠牲にしようなんて考えてないわよね?


投げかけようとした問いが複雑な心中に巡っていた




霊山の山頂で空間を歪めているように渦巻くモノ

何処よりも強い精霊の力をその奥から感じ取る

精霊界の入口で間違いないだろう

その目前で誰かを待つように立っていた四象刃のプレザとアグリアの耳に此処へ近づく足音が届く


(…アル)


背後を振り返ると、彼女達に近づいてきていたのはジルニトラで別れて以降、会っていないミラ一行だった


(本当に、生きてたのね…)


こうやって直接生きている姿を確認出来た事で胸に安心を抱きたかったものの、それはプレザには許されないことだった


「お前たちは…!」

「プレザ…」


訝しむようなミラの視線を受ける中、彼―――アルヴィンが字を呼んだ

それは囁くようなものだったが、それをプレザの耳は拾ってしまう

たったそれだけのことで心が反応してしまうが、プレザはすぐにアルヴィンから視線を外した


「…また敵同士になれるなんて、喜んでいいのかしら?」

「アハハ!またあんた達を甚振れるなんてサイコー!」


その言葉通り、プレザが此処にいるのは彼らの“敵”としてだった

プレザ達の態度から彼女達がどうしてこの場にいるのかを察したミラ達との間に緊迫した空気が張り詰めようとする


「お前たちもウィンガルのように邪魔をするということか?」

「当然でしょ」

「それは、ウィンガルの言うように…僕がガイアスの邪魔になるから?」


出逢った当初の少年は、ミラと言う存在に隠れた弱き存在だった

けれど、彼女と共に行動していくことで少しずつ成長していき、自分の道を見つけていこうとしている

その変化はガイアスの目に留まっていたが、ウィンガルにとってそれは危惧すべきものだった


「ウィンガルにとって確かに坊やは危険なのかもしれないわ。けど、陛下の邪魔になるのは貴方達全員よ」

「あんた達の考え自体が迷惑なんだよ」


だが、今の状況において邪魔なのは、今プレザ達の目前にいる全員だった

ウィンガルからの通達から彼らが何のためにマクスウェルの元に行くのかは知っていた

それは、陛下が選択した道とは相反するものであり、この世界を危険に晒すものだった

そしてまた、あの子をも―――


「断界殻を解かせたくない…そういうことか」

「けど、エレンピオスを…アルヴィンの故郷を救うには断界殻を解く必要があるんだ」

「ジュード、お前…」


何度も裏切られたというのに、傍に置き、彼の事を理解し、案じる少年たち

アルヴィンの目は戸惑いを生じていたが、感謝…いや、安らぎを感じているようだった

それを見て、プレザは悟る


(良かった…)


ようやく気付いてくれたのだ

彼にも居場所があることを

それを知り、彼女はアルヴィンの隣にいてくれる彼らに感謝し、嬉しく想う

もう、彼に対する憎しみなど、一欠片もなかった


(…エレンピオス…アルの故郷…)

(帰りたいのね…アル)


自分も彼の助けになってあげたい

彼の傍に居てあげたい

プレザではなく、ジルとして彼と共に生きられたら…


「…悪いけど、今度こそ死んでもらうわ」


けれど、彼らに居場所を与えられたアルヴィンのように、プレザにも居場所を与えてくれた相手がいる

ガイアスを裏切ることなど、彼女には出来なかった


「そうはいきません。私は、ジュードさんをマクスウェルに会わせなければならない」

「ローエン…?」

「貴方がミラさんとガイアスさんを特別と感じたのは……二人が真に大人たる生き方をしているからです」


決して揺るぎを見せることなく、自分の道を歩む強き姿

それを行える二人に少しでも近づくために、自分の足で立って歩んでいく少年の邪魔をさせないようにローエンが言う


「アハハ!ジイさんはしてねーけどな!」

「お恥ずかしい話、そうなのでしょう…」

「…ご託はもういいよ、ジジイ!あんたは先にヘブンリーしな」


嘲笑うアグリアだったが、否定することなく認めるローエンの姿に表情を変える

いつもの調子など失せ、彼女は冷たい口調となると、火球を放った


「っち!」

「アル…」


それを受け止めたのはアルヴィンであり、まるでその居場所を守ろうとするような行動だった


「アグリア!どうして貴方は!」

「うるせぇ!あたしはな、陛下を裏切るわけにはいかないんだよ…ババア!あんただって同じだろ!あたし達の居場所はここだ」

「そうね……」


アルヴィンに対して未だにその感情を捨てきれず、煮え切らない様子のプレザにアグリアが教える

過去を振り返るようにプレザは視線を落とすと、自分に言い聞かすように言った


「陛下は私達のようなゴミとされた人間まで傍に置いてくれた」

「プレザ……」


自分を置いてくれ、道を照らしてくれたガイアス

彼に拾われたことで、プレザは生きる希望を持てた

自分はもちろん、全てをその身に背負う王

王のためにプレザは存在しなければならない


「…だから私は、陛下が進む道の邪魔になるものは消すわ…」


陛下が歩もうとする道のために役に立たなければならない

だが、そこには陛下のためだけでなく、プレザ自身の気持ちもあった


“―――自分を犠牲にしようなんて考えてないわよね?”



断界殻を解く先に何が待ち受けているかはわからない

その不確かな道は、ミクニを記憶の少女のようにするように思えた


「ごめん、アル……」

(陛下…そして、あの子のためにも私は…)


面を上げ、四象刃としての顔となり目の前の彼を―――敵を見据え、プレザは術を展開させる


「貴方はやっぱり…私の敵ッ!」

「ここで役に立てなきゃ、お払い箱なんだよ!」


彼に対する想いを切り捨てるように言葉を吐き、プレザはアグリアと共に彼らを排除することを決めた




愛する人と敵対し、彼を殺す覚悟をしてまで陛下との道を選んだプレザ

けれど、地面に膝をついているのは愛する人ではなく、自分自身だった

隣では自分と同様に傷を負い、立ち上がる事さえ難しそうにアグリアが息を吐いている


「アル……」


傷口から流れ出る血が肌に伝うのを眺め、自分達が負けたことを実感する


(…良かった)


陛下に対して申し訳なかったが、その半面、この結果となったことにプレザは安心していた


「たった数日間だったけど……貴方といられて幸せだった……」


敗北したことで、四象刃としての使命感が消え失せた様に、プレザの口からは彼に対する想いが籠った言葉が紡がれる


「プレザ、俺は……」


裏切ったというのに、幸せだと言うプレザの言葉にアルヴィンの表情が歪む

プレザに対して、彼は何かを言おうとするがそれ以上の言葉が言い表せ難いように言い淀んだ


「よかった……アルヴィン。居場所……貴方にもあるの……気づいて」


彼がどのような言葉を言おうとしていたのかはわからない

きっと裏切ったことに対する謝罪だろう

だが、そんな言葉はもういらなかった

彼が居場所に気づき、それが守りたい程に心地よいと感じているのなら、それでプレザは十分だった

居場所があることだけでどれだけ幸せかをプレザは知っている

だからこそ、愛する人に居場所が出来たことに、彼女は自分のことのように幸せに思え、微笑んだ

その微笑みを受けてアルヴィンが瞳を見開き、口を開くのが見えたが、それを消すようにプレザの視界が揺れ動く


(っ…私、此処で…)


激しく揺られる視界で地面が罅割れるのが見える

その場所から離れようにも力は入らず、自分達がいる大地が崩れ出そうとする中で、プレザは悟った


自分は此処までなのだと


だが、不思議と不安はなかった

アルヴィンに対する憎しみから解放され、彼の幸せを知れたからだろうか?


(…アル)


隔離されるように地面が切り離されていく中、アルヴィンが必死になって駆け寄ってくる姿を捉える


「プレザッ!!」


声を張り上げて、自分へと伸ばされる腕

その腕へとプレザも腕を伸ばしたが、それは掠めることなく離れていった


(ありがとう…アル)


どのような想いであれ、彼が自分を助けようと腕を伸ばしてきてくれた事実

その幸せに浸りながら、プレザは重力に引かれて底へと落下していくのに身を任せた


「プレザ――――ッ!!」


(あの時、貴方に出会えて本当に良かった)


鋭い風の音に混じって愛する人の声を耳にしながら、瞳を閉じ、主に向けて謝罪する


(陛下…ごめんなさい)


陛下が歩もうとする道の手助けをしたかった

陛下が想うミクニのためにも彼らを阻みたかった

その心は嘘ではない

けれど、最後までアルヴィンに対する想いを捨てきれずにいた事実もあった

その罪を償うように死を覚悟したプレザの脳裏には、今までの事が走馬灯のように過ぎ去っていく

親に捨てられたこと、アルヴィンに裏切られたこと

その中には悲しいことや辛いこともあったが、それ以上に輝かしい記憶がプレザにはあった

短い期間だったがアルヴィンとの幸せな日常

そして、ガイアスに居場所を貰えたことで訪れた安心感

その中でもこの数カ月の間は印象深く、そこには1人の存在が絡んでいた


(そうよ…ミクニが来てから)


今までにいなかったミクニが入り込んだことで、自分達の間に変化が訪れていた

その変化は人によって捉え方は様々だろうが、プレザからしたら決して悪いものではなかった

少なくとも、彼女と接する時間はプレザには心地よかった


(普通の女として生きて…女友達がいたら、あんな感じだったのね)


任務や立場など関係なく話せる存在は、初めてだったように思える

彼女の気質のためか、彼女との会話は穏やかなものであった

だからこそ、女友達とはそんな存在かと想像した


(ねぇ、ミクニにとって私は―――…)


彼女にとって自分はどんな存在だったか考えたくなるが、そこで区切る

考えたところで、もう無意味なのだから

そのまま光景の渦に呑まれていこうとした時、自分を含めた四象刃と陛下、そしてミクニが集った場面がプレザの思考に留まる


(ああ…こんなにも)


笑顔とは違ったが、皆の顔には任務や国という事柄など一切なさそうであり、その空間には張り詰めた空気など存在していなかった


(…これも全部、ミクニがいたからなのね、きっと…)

(……ありがとう、ミクニ)


少しずつ変わっていたためか、こんなにも穏やかな日常だったのだという事を今更になって気づく


(どうせなら、最後にもう一度…)


そして、それを齎してくれたミクニに感謝した後、当たり前だと思っていたその日常をもう一度味わうように、プレザの意識は薄れていった



無縁であったモノを手にしていることに気づくが、もう、


―――***

アルヴィンを想うも陛下への忠誠心と夢主を守りたい思いのために複雑な心。
そして、夢主と関わることでプレザが感じていた心情などが少しでも伝われば幸いです。

(H24.2.1)



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