とうとう訪れた事実に何かを思うよりも、ミクニは目の前の存在との邂逅に心が喜びに満ちた


「やっぱり君なんだね…セルシウス」


“ごめんね”


微笑みを向けて心の声で一言謝れば、責めたい気持ちと再会への気持ちが混ざり合った彼女は、口にしそうになった言葉を噤んだ


「…どういう事だ、ミクニ」

「後で話すよ、ガイアス」

「はっ…やっぱお前の力は…普通とは違うようだな」


セルシウスとのやり取りに疑問を感じたガイアス達の視線を浴びていたが、ジランドの声で意識が戻る


「お前の力があれば、源霊匣も安定し…エレンピオスも消えずに済むだろうな」

「ミクニに触るな!」


エレンピオスの命の灯を消さないようにミクニへと手を伸ばしてこようとしたジランドだったが、それをセルシウスが阻む


「エレンピオスが消えるのが嫌なのか?」

「そんなの当然だろうが…エレンピオスは、俺の故郷だ…」


セルシウスを下らせて問えば、上辺だけではない故郷を思う心があると感じさせる声色で返ってくる

自身の欲のためからの行動がないとは言い切れないが、少なくともジランドなりに故郷を救いたい気持ちがあったのだろう

そうは思うも、ミクニが彼の心を見定めるような視線を変えることはなく、ミクニの代りにレイアが睨むような声を出す


「でも…マナが無くなったのは、黒匣を使い続けたあなたたちの自業自得じゃない……」

「源霊匣が広まれば、エレンピオス人もマナを得られる」

「今さら何を……二千年前、黒匣に頼る道を選んだのはお前たちだ」

「俺じゃねえ!」


ミラの言葉にジランドは耐えきらないように叫んだ


「…確かに二千年前のことはお前達に直接的責任はない。だが、精霊が死ぬことを知っていて使い続けている罪は否定できない」

「なら、俺達に黒匣を捨てて、どうやって生きていけって言うんだ!」

「何故黒匣に頼らなければいけない?黒匣がなければ生きていけないなど、お前たち人間が便利な生活を放棄できないためだろう?」


黒匣を頼る道を選んだのは彼らの先祖ではあるが、黒匣の代償を知っていて使い続けているのならば、先祖と同罪だ

黒匣の生活に慣れてしまったために捨てきれず、世界の危機に目を背け続けていいわけがない


「その生活のために、精霊とリーゼ・マクシアの人間を犠牲にしてもいいと思っているのならば、とんだ傲慢さだ!!」


ミクニの声が鋭さを増し、周囲の空気を震わす

そこには確かに怒りがあり、ジランドを通してエレンピオス全体を咎めていた


(故郷のために行動するのは悪いことじゃない)

(生きるためならば他者を犠牲にするのが世界の常)

(けれど、許されるわけではない)

(己たちの利便性のためならば尚の事だ)


ミクニが放つ威圧感に緊迫が奔り、彼女の異変に辺りの者達は目を見張っていた


「だが…俺達にはもうっ、があああぁぁああ…!!」

「これは…」

「私を使役したために、過度の生命力を消費し続けたための反動だ」


悔しさか、罪を突きつけられたからか、歯を噛みしめていたジランドの表情が歪む

突然苦しみ出す姿に眉を顰めれば、セルシウスが教えてくれた

恐らくマナを生み出さない彼は、マナの一種である生命力を消費していたのだ


「おい、大丈夫か!?」

「俺が死んでもリーゼ・マクシアの運命は変わりはしねえ!」

「何だと?」


ジランドと縁のあるアルヴィンが駆けつけてくれば、彼は苦しみながら絶望させるように言い放ち、それにガイアスが瞳を鋭くする

ジランドをどうにかした所で意味はなく、エレンピオス自体を根本的に解決しなければいけないことはわかっていたが、その言葉にミクニは苦々しい顔をした


「お、俺たちの計画は…断界殻がある限り、続けられるぞ……ザマぁみやがれ、っ!」

「ミクニ、何を!!」

「それならば尚の事、お前には生きてもらう!こんな業を残していったまま自由になどさせはしない―――!」


痛みに襲われながらも嘲笑うかのようなジランドの腕を掴み、皮肉な笑みを向けて言った

その行動の意図がわかったセルシウスが止めに入ろうとするが、それを制してミクニはジランドの痛んでいく神経を癒すようにマナを送り込む

それにより僅かな痛みが伝うが、その後を追うように全身の皮膚がひりつく様に感じた


(っ―――、…まだ、耐えて)


だが、それはジランドが原因ではないことがわかり、ミクニは内心舌打ちをする


「きさ…ま…っ…」


ミクニに何かを言おうとしたジランドの声は掻き消えていき、彼の身体は意識が無くなったように倒れていった


「死んだのか?」

「…ううん。気絶しただけ」

「そうか……これは返してもらうぜ。ジランドール・ユル・スヴェント……叔父さん」


傍にいたアルヴィンは気絶したジランドを少しの間眺めた後、彼が所有していた黄金の銃を手にする

二人の関係に顔には出さないものの、多少衝撃を受けると、ミクニは黙ってその場から離れた


「お前、またっ!」

「…ウィンガル、どういうことだ?」

「何でもないよ、ガイアス」


カラハ・シャールのことを連想したウィンガルが咎めるように声を張り上げれば、ガイアスもその声から何かを察して瞳を細める

それにいつも通りの笑みを浮かべて変わったことはないと振る舞った


“…ミクニ…マナが乱れている…何故だ?”


心臓の鼓動が速まっており、血流が加速して、体の温度があがっている

その熱に刺激されたように体内のマナが落ち着いておらず、ミクニは明星を握りしめて普段通りの身体に戻そうとしていく

面に出さないようにするミクニだったが、マナの乱れから異変をセルシウスに知られる

それに答えられず、ミクニは言葉の代りに笑みを見せるだけだった


「ねぇ、ミクニって一体何者なの?」

「エルシフル君がいるから大精霊と知り合いでも不思議じゃないけど、何かセルシウスを精霊に戻すとか言って…それでセルシウスも雰囲気ちょっと違うし…」

「……さぁ」

「言えないことか……いや、今は探るべきではないな」


明らかなはぐらかしにミラが瞳を見つめてくるが、彼女は首を振って中央へと向かい、火・水・土・風のマナが集約している機械へと触れて彼女の四大を封印しているモノを破る

光が溢れてミラが召喚の印を結ぶと、大精霊の力が彼女の四方へと出現した

その姿はまさに四大精霊と謳われる者達だったが、ミクニの知る姿はそこにはなく、ミクニは黙って視線を向ける


(…皆…)


声を掛けたいと思うも声は出ず、彼らが自身に気づいてくれることを願う

けれど、記憶が全くないように彼らがミクニの気配に気づくことはなかった


「…イフリート達、まさか…」


侘しく思っていれば、何かを知っているのかのようなセルシウスの呟きが耳に届く

けれど、それを今は尋ねる事は出来ず、ミクニは槍を破壊しようとするミラを見守っていた


“―――ミクニっ”

「エル…?」

“逃げるんだっ!!”


珍しく切羽詰まった声が脳内に響き、ミクニが危機を察した時、槍が起動していないというのに船が揺れだして上空から強力な術の波動を感知する


「皆!逃げて!!」

「えっ、何!?…きゃっ!!」

「くっ!!」


声を張り上げ皆に此処から立ち去るように言って間もなく、人間は地面へと押し潰されるように沈み、精霊は具現化をすることを許されなくなった


(うっ…この術、まさか…)


圧し掛かる術の威力に刺激されて、落ち着いていっていた鼓動が速まり、皮膚に汗が滲む


“…エル…何がっ?”

“っ…ミュゼだ。この者は断界殻を知る者を消すのが使命らしい…マクスウェルの身代わりであるミラも共に消すそうだ…”


その知らせに嫌なことばかり事実になりやすいと薄笑いを浮かべた

半身の声から、彼がミュゼとやり合っており、自身らを襲う術を消すことを阻まれているのを察する


「ミクニ…っ…この程度の術、破ってみせる…!」

「…ガイアス…」


術のせいか、体の異変のせいか、霞む視界でガイアスが術に抗おうとしているのを捉えた


「破る…そうだ!クルスニクの槍を使うんだよ。あれは術を打ち消す装置なんだっ!」


ジュードがこの危機を脱するために槍を使うと言う言葉に皆が抵抗の色を見せつつも、それを実行しようとする言葉を出す


「ア、アハハ。あれに自分から力をあげるって?」

「…命掛けか……」

「だがやらねば……いずれにせよ終わりだ」


この重力では人間の身体はそうは持たない

けれど、この人数で槍にマナを注げば命にかかわるだろう


(このままじゃ皆が…)


意識に掛る靄を振り払い、ミクニはこの術を打ち破る事の出来る刃を捉える

これを使えば皆がこの状況を回避できることは一目瞭然だった

そうはわかっているミクニだったが、彼女は躊躇うように刀身に映る息の荒い自分を覗く


(何を迷ってる…)

(私がガイアスを…皆を守らないと)


その鏡の奥に己に潜む闇が見えたが、ミクニは術に耐えるガイアスを視界に捉えるとすぐにその恐れを遠ざけた


「そんな命がけのことはさせない…私が打ち消す」


ミクニの凛とした声がよく響くと、皆の視線が集まる


「…術が消えたら、すぐに逃げなよ…ミュゼは、私達全員を殺す気だから」


ガイアスでさえ膝を着いている状況でミクニは明星を支えに上半身を起こす

重力に抗うことで体の至る所で骨が軋む音を立てるが、それさえ無視して重い体を持ち上げた


「何で…ミュゼが!?」

「ミュゼはミラの…お姉さんでしょっ!?」


自身達が置かれている現状がミュゼによるものだと知らせれば、ジュード達が驚愕する

だが、彼らの問いにミクニは答えずに明星の力を解放していく

術式を広げていこうとする最中、必死に面を上げて自身を捉えているミラに気づいて彼女に向けて言葉を投げた


「…自身の存在など肩書きでは決まらず、他人が決めるものでもない。だから…自分が歩んできた道だけを信じなよ」

「まさか…ミクニ、君はっ」


言葉の意味を理解したミラに小さく笑んだ後、苦しむガイアス達を視界に納め、彼らを救うべく刃へと全ての意識を向ける

意識を繋げ、展開した術式がミクニとガイアス達を包むように光を立ち昇らせようとした瞬間、体の血流がざわつき、その不快感にミクニの顔が歪んだ


「っ、ミクニ―――!!」


襲いかかる術を遠のけるように光が眩く前、苦痛に染まった自身の表情を捉えたガイアスが名を呼ぶ

内側から熱が迸り、疲労や痛みとは違った苦しみが這い上がってくる中で、彼の声をしっかりと拾ったミクニは己の身体に命じた


―――静まれ


己の身に潜む災いが外に出る事を封じてくれるように、浄化の光を放つ明星に祈った



災厄がの下を蠢き、覚醒を知らせる



―――***

原作と大幅に違いますが御許しをorz
夢主が自己犠牲な性格なので、ミラのあの場面は阻止しました。
ジュード君は、きっとあの場面がなくても変わっていってくれるはず…
そして、やっとTOV=TOXという事実が立証
こんな捏造ですみません。



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