民からの上奏を一通り終えたガイアスは、自身の城の中を歩いていた

今は右腕であるウィンガルはおらず、もちろん他の部下も居なかった

自身の姿が見当たると城に配置された兵士が礼儀を正す

最早当たり前となった道を歩み続けていれば、ガイアスは何かを見つけた

ガラス戸の向こうに誰かが立っており、見るからに兵士ではなかった

本来ならば、そのまま通り過ぎるはずだったが、白い世界で見えた顔にガイアスは心当たりがあった


(あの者か)


ガイアスは少し思考を巡らし、女が居る露台へ続く扉を押しあけた

此処から広がる景色を眺めていたであろう女は、ガイアスが起こした音で表情を向ける


「君は確か、私を助けてくれた人?」

「そうだ」

「ありがとう。おかげで命が助かったよ」


気さくに話しかけてくる女の様子から、やはり自分が王であることを知らないと再確認する


「気にするな。それよりお前は此処で何をしている?」

「…ちょっと此処が何処か、気になったから」


白い息を吐きガイアスから視線を外して空中へやる

その横顔から真意など読み取ることは出来ず、ガイアスはただ視線を外すことなくいた

すぐに女は意識をガイアスへと戻すと「そう言えば…」と何かを想い出す


「名前を聞いてもいい?」

「名前だと?」

「恩人の名前くらい知っておきたいの」


表情を崩さないガイアスに女は困ったような面持ちとなる


「因みに私はミクニ」


(ミクニ……名前があるのか)


自分の名を告げてくる存在に、ガイアスは先日の姿を思い起こす

ミクニと名乗った女をわざわざ城内へと連れてきた原因であり、不可思議な現象を

けれどガイアスは、今はそのことへの追及は考えず、ミクニが求めた答えを口にした


「俺の名は、ガイアスだ」

「ガイアス、ね。よろしく」


人と何ら変わらない笑みが向けられる




零細なまりが、全てを齎す原因となる兆しだったのかもしれない



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