罪
戦火に満たされる天空で金属の塊に周囲の精霊のマナが吸われていく
それが力となり地上へと放出される瞬間、瑠璃の光が電光石火の速さで過ぎり、砲撃部を破壊し、爆発と煙があがった
“ジャオ”
突然のことで船が一時的に動きを止める中、透き通る飛膜を広げた竜―――ミクニが抉れた大地へと向きを変える
激しい戦の痕だと物語る其処で目に止まったのは、黒匣を纏った異人らとは違う一際身体の大きな人だった
「ジャオ!」
人にも聞こえるように口に出すが、大男は血を流したまま動かなかった
ゾワリと体内がざわめく中、相手のマナの流れから拍動を感じ取る
(生きてる)
微かな息ではあったが、確かに命の灯は消えていない
それに一時の安堵を覚えると、すぐさま己の体内に巡るマナを集わせ、光の吐息を吹きかけた
粒子と化したマナによりジャオの外傷を塞がっていく
それにより一先ずは命を取り留めたと確認するも、ミクニの意識はすぐさま上空へと向かった
ミクニの姿に危険を察知したのか、襲った戦艦以外の金属の物体がこちらへと集まってきている
(私を狙いに来たか)
己を狙おうとしている複数の黒匣にマナが消費されていくのを感じ取り、その前足で意識を失っているジャオを抱えると一気に飛翔した
直後、ミクニが降り立っていた大地が更に抉られる
(…愚かな…)
そのおぞましい凶器を打ちのめす案が浮かぶが、此処で打ち落とせば地上にいる人が巻き添えを喰らう
そこまでを考えるとミクニは敵の注意を惹きつけつつ、沼野から離れていく
ファイザバードが見えなくなり、近くに集落も何もない所に移動した瞬間、ミクニは黒匣を睨みつけ、咆哮した
(…全て…消えさるがいい…)
精霊を犠牲にして浮かぶ機械に苛立ちが募ったように、透き通る翼が周囲から何かを集めて光を帯びると全身を輝かせた
竜の口に青白い球体が生まれ出し、一瞬力が膨張する
“始祖の隷長の…精霊達の怒りを思い知れ”
《 マテリアル・フレア 》
力―――マナの塊から幾重もの閃光が分かれ解き放たれていき、精霊に害なす存在を貫いていった
その光により炎上しながら戦艦が堕ちていく様を冷たく見下ろし、彼らから解放されていく精霊の気配を見送る
それでも腹立たしさや憎悪という負の感情は消えることなく、虚しさがミクニを襲う
遣る瀬無い心の中、ミクニは抱える人の存在に目を向けた
彼の姿にただでさえ澱んでいる心が更に歪もうとする
(ジャオは、傍で支えてきてくれた人なのに…)
(…なんで、あんなに平然としていたの…ガイアス)
(王だから?)
(……民のための…王だから…?)
(なら、民でない存在は…簡単に切り捨ててしまうの…?)
―――ガイアスにとっては“人”以外はどうでもいい
(…民のためなら…精霊達を殺すの…?)
(なら……私もきっと…そうなんだろうね)
王であるガイアスに苦しんでいると、彼への感情を捨てさせるように言葉が―――始祖の隷長としての声が囁いてくる
あの時の自身の問いに応えなかったのがいい証拠だ
あの男は、黒匣を手にする者達と変わらない
所詮、世界は見えず、人のことしか考えない人間
それに応えたくないように、ミクニは静まった空を駆けていった
(本当はわかってるよ…そんなこと)
感情に流され、愚かな罪から目を背けてはならない
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