ミクニの秘められたマナを探る様に与えられ続ける激痛

刃で身を削ってくる痛みは、過剰なエアルが暴走した時のようだった

体内のマナが体中で暴れては、皮膚を破って外へと出ていく

そんな感覚だった

体内を巡るマナが薄れたミクニの身体は、電撃を浴びせられたように爛れていた

本当にマナが皮膚を破ったかのように、肌は崩れて赤く腫れあがっている

いつもならば、このような状態になる前に治癒能力が働いていただろうが、力の大半を封じられている今は、そうもいかなかった


(結局自分は生半可な存在なんだね)


始祖の隷長としての力がないのでは、自分は抗う術を持たない非力な存在だと認識していると、異変に気づく

薄いマナの膜がミクニの身体に生まれようとしていた

何故かと思い、辺りを見渡す


(そうか、槍が吸収していたから)


イル・ファンから離れ、槍と共に沼野へと連れてこられたが、先程槍は先に運ばれていった

自身を取り囲む兵士の視線からこの崖の上だと察する

程なくして自分も連れて行かれるのだろう


(なら…今しかない)


そう決断するのに時間は掛らなかった


「うっ…――――!!」

「っ!?大人しくしろ!!」


球体の頭上を貫くように手を伸ばす

抑えていたマナの塊に意識を集中して、右手に力を集めた

力を封じる幾重にも重なった術式に抗う反動で脳が揺れ、耳鳴りがする

球体に触れてまた痛みが駆け抜けるが、最初の頃とは違い、そこまで酷くなかった

その行動に気付いた兵士が声を荒げて止めようとするが、それでミクニが止まることはなく、この球体の要である石を捕らえようとする

膜を貫こうとした指の爪が割れ、指先の血管が破裂したように血が流れ出した


「ぐはっ!!」

「お、お前はっ……がっ…」


痛みに麻痺した時、近くで悲鳴が上がった

膜に弾かれたミクニは、血が流れる手のまま悲鳴を確認する

自身を見張っていた兵士が転がっており、誰かがいた


「…、なんで…此処に」


圧倒的な強さで兵士を蹴散らし、長刀に付いた血を払う姿がゆっくりとミクニの方を振り仰いだ


「ガイアス…」

「…ミクニ」


どのような表情を向ければいいのかわからず、ただその紅と視線を交える

彼はミクニの状態を確認すると顔を顰めた


その顔は、どういう意味だろうか?

失態を蔑んでいるのか?憐れんでいるのか?

それとも使い物にならなくなったと思っているのか?


言葉が見つからず、ミクニは頭上へと視線を変えた

自身の手では届かなかった結晶が淡く光り輝いている

だが、それはすぐに終わった

刃が見えたと思うと、結晶が唐突に砕け散る

無重力がなくなり一気に重力が襲う中で、それを目撃した


「ミクニ…すまない」


力なく倒れるミクニをガイアスがその腕で阻止した

全てから隠すように包み込もうとする相手の顔が視界に入りこむ

謝ってくるガイアスが労るような目をしている


「…なんで謝るの?」

「…俺のせいだからだ。俺のせいでお前はこのような目にあった」

「ガイアスのせいじゃない。全ては私自身が選んで取った行動」


自身の意志で選んだのだ

そうしてこうなった

誰にも関係はない

この状況に陥っているのは自分の浅はかさなのだ


「だが、お前が攫われたのは俺の、」

「所詮は噂。実際には私とガイアスには何の関係もないんだから…」


ガイアスの声を遮り、平然を装って言うが胸が痛む

ガイアスの顔が少しだけ悲し気に見えた

けれど、きっと自身の願望による錯覚だろう


「この失態は私のせい…だから…、」


そう捉える自分が悲しくなり、彼の腕から逃げるために「下ろして」と言おうとした

けれど、痛んだ身体に流れ込んでくる温かなモノに声が止まる

紛れもなく、それはガイアスのマナだった


何故、そうするのだろうか?

死んでは困るから、そうするのだろうか?


「…気にしないでって言ったじゃない…それとも……この姿が、憐れ?」


無意識に口にした言葉に、内心震える

ガイアスの口から返ってくる言葉に身構えながら、ミクニは彼を見ていた


「っ…そうではない…!俺は、お前が大事なのだ!」


その響きに心臓が大きく跳ねる


「…だい、じ…」


彼が言ってくれた言葉を自分で口にすると、次には胸に温かいモノが広がった

その言葉の真意がわからずとも、それだけで嬉しく思う自分がいる

せっかく言い聞かせるように頭で否定を並べてはいたが、心は正直に都合よく反応する


「そっか…」


愚かだとわかっている

それでもガイアスが触れてくると、自分が惹かれていることを教えられてしまう


「俺がお前を守る。だから、安心しろ」


抑えていた痛みが、心が緩んだせいか襲ってきた

全身を束縛する痛みと気だるさが手伝い、彼の温もりに甘えていく

心地よい感覚に、意識が重くなる

ガイアスが自分を好きでなくとも、幸せに感じてしまう

だが、それ以上に苦しくなった


だから私は、気持ちを必死に抑え込む

時が来れば何れ消えてくれると思うから

そうして平静を装い、私は素知らぬふりを続けなければいけない


“一層のこと、嫌いになればいい”


だが、それを出来る程の勇気がなかった

きっとそれは、感情以上に冷たさを恐れているからであり

だからと言って、温かさを必要以上に追い求めるわけにもいかず


夢と現の狭間にある意識に流れてくる事実の言葉を知っても尚、生温かい環境を望もうとする自分にミクニは想う



何もかも中途半端な自分は、何とも滑稽で疾しい存在だ



君から別することを望むが、求めてしまう私もいて



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