(此処は…)


意識が覚醒したミクニは辺りを確かめた

寝ていた場所は、しっかりとした住まいであり、ミクニは頭を悩ませる


(どうして、此処に居るんだろう)


身体を起こすために動くと、鈍い痛みが身体を奔った

急な痛みに顔を顰めた彼女は自身の身体を見渡し、眠りに落ちる以前を想い出そうとした


“ミクニ、平気か?”

「うん」

“そうか”


その様子に反応して朧な存在が姿を現した

ミクニはその影に笑みを向け安心を与える

それに相手は心配を拭えたのか空気と交わって消えていった


「にしても…あの人が助けてくれたのかな」


重症を負っていたはずの身体には、目立った傷は見当たらなかった

誰かが癒してくれたのだろう

その誰かとして思い当たるのは、ミクニを抱き上げた青年しかいなかった


(それなら、礼を言わないと)


部屋には自分以外いないようでミクニはベッドから身体を出して部屋から出ようと考えるも、見つけたモノに動きを止める


「あれ?私…雪国に居たっけ?」


部屋に備えられた窓から見えた白い色

ミクニの認識が正しければ雪であり、外の景色をそれが覆っている

けれど、ミクニが落ちた先は雪など降っていなく、雪が降りそうな空気でもなかったはず


「正気じゃなかったから、よく覚えてないけど…寝ている間に降ったのかな」


正気じゃないと言った自分の言葉で、気持ちが焦り出す


(そういえば、街を襲って)


申し訳ない事実に口を閉ざした時、ミクニの背後で音が鳴る

振り向けば知らない人だった

白い衣服を纏う中年の男は、少し驚いた声を出すと、気を取り直してミクニに言う


「身体の方はいかがですか?」

「あ、はい。特に問題はありません。あの…貴方が治してくれたんですか?」

「ええ。貴方の手当てを頼まれましたので」

「そうですか。ありがとうございます」


愛想の良い笑みを見せる男は、医者なのだろう

ミクニは礼をしようとするが、痛みに動きを止めてしまう

その様子から医者は異変に気付き尋ねてくる


「外傷は治しましたが、深手であったため完璧とは言えないようですね。しばらくは休んだ方がいいですよ」


負った傷もあるだろうが、ミクニは主な原因はそれでないことはわかっていた

正気を失うほどに瘴気を吸ってしまったために身体の節々が痛んでいるのだ


「そういえば、私を助けてくれた青年は…?」

「青年?…ああ、あの方なら、今は執務で」


一瞬、医者は不意を突かれたように目を見開くがすぐに答えてくれた

その様子から青年には会えない事を察し、ミクニは頼む


「忙しいんですか?」

「ええ」

「なら、代りに伝えてもらえませんか。助けてくれて感謝していることを」

「わかりました」


それからミクニの身体を少しだけ見た後、医者は部屋を後にした

医者に安静にしておくように言われたミクニはしばらくの間大人しく居たが、再び立ち上がる

ゆっくりと扉を開ければ目立った人影は見当たらず、ミクニは廊下を歩きだした

長い廊下は一般的な家庭とは思えなく、大きな屋敷―――もしくは城のように思えた


「やはり、此処は……」


見晴らしのいい広緑に出て広がる景色を見渡す

ミクニが居る場所は何処かの城のようで、大きな街並みだった

孤立した村でもなく、これだけ大きければ地図に記されているだろう

けれど、ミクニの記憶は此処を知らなかった

それから導き出される答えが浮かび


「テルカ・リュミレースじゃ、ない」


ぽつりと言葉が零れ落ちる




肌を突き刺す冷たいの刺激に、寂しさが増した




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