毒が広がっていくように身体が汚染され、全てが覆われていく

残された意識で無我夢中で力を放つ

その光が淀んだ空間の中へと奔ると、罅割れる音が聞こえた


“ミクニ”


ミクニという己の名に僅かな意識を持ちこたえ、差し込んだ光を目指す

次第に小さくなっていく光へと飛び込めば、毒の空気は消え去り、澄んだ視界が広がる

ミクニは背後を振り返り、未だ閉じていない空間の割れ目を捉え、言葉を紡いだ


「たの、む…――――」


最後の力により現れた紋章に全てを託して、ミクニの意識は途絶えた






(苦しい)


巨大な影が走り、山奥へと飛来する

その気配に周囲の魔物は危険を察知して飛散していく

騒音を鳴らしながら高山に落ちたのは、透き通った翼を広げた人ならざる存在―――ミクニだった

バランスを取れずに、地に転がったミクニにより大地に傷が出来る

魔物も動物も居ない広大な敷地で肢体を引きずる様に歩もうとするが、上手く動くことなく地面へと倒れ込む


(…これ以上は、飛ぶ事は出来ないや)


失いかけていた自我が戻ったことで、代りに身体の痛みを感じ、血が少ないことを冷静に判断する

僅かに持ち上げていた頭も地面へと倒し、全身の力を抜く

すると、淡い光が獣の姿を持つミクニの身体から立ち昇るとその姿が溶けるように崩れていった


「っ…瘴気はだいぶ抜けたようだけど」


光が失せ、残った影から魔物の面影はなく、代りに人の姿があった

それこそがミクニのもう一つの姿であり、ミクニは人へと戻っていく肌を見送る

だが、静寂の空間に響いた物音にはっとした

視線を滑らせれば、見えたのは鋭く光る長刀

それを辿れば、青年の姿を持つ人間が立っていた


(私を追ってきたのかな…)


露わになっている肢体を覆う簡易的な羽織を羽織ったまま青年の視線を受ける

刃のように鋭い眼光から目を逸らす事が出来ずに居れば、遠くから声が聞こえた


「…居たか!?」

「いや、こっちには居ない!!」


内容から自分を追っている事がわかり、ミクニは逃げる術を考えようとしたが、それよりも早く青年が動く

刃が風を切る様に動く様から、自分が斬られることを予想するも当ては外れた

青年は刃を鞘に仕舞い込むと、倒れたままのミクニの元へ近づくと自身のマントをミクニへと掛けるように投げる


「…え…?」


近づいてきた足を見上げ、その瞳を探る

何を考えているのか読めなかったものの、敵意はなかった

強い意志を持っているような瞳に少しだけ囚われていれば、青年がミクニの身体を抱き上げてきた

気だるい体では青年の手から逃れることなど出来ず、意味を問おうとする


「どう、して?」

「傷に響くぞ」


青年の言葉に声を止められるように、それ以上言葉は紡げなかった

体力が限界に近かった彼女は、青年に逆らうことなくその腕の中で大人しくすると、僅かに見えた空を仰ぐ




綺麗な色が薄れていこうとしていた



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