カラハ・シャールの中央広場にて、馬の手綱を握るジュードがおり、その馬にミラの姿があった

何でもジュードの親ならば、ミラの足を治せるかもしれないということで二人はル・ロンドへと向かうという

神経が既に死んでいる足を治せる技術があることにミクニは驚きと興味を抱いたが、ミラが治ると言う事で深く考える事はなかった


「にしてもジュード君。昨日は反対してたのに、どうしたの?」

「え?」

「ミラがイル・ファンに行くの、反対したのを聞いたから」

「うん。反対したよ…でも、ミラは無茶してでも絶対に行くから。なら僕は、少しでもミラの助けになってあげたいって思ったんだ」


心優しいジュードならば、そのように行動しても不思議ではない

だが何よりも、彼女の役に立ちたいと言うジュードの瞳には、強い意志を持つミラに対して憧れに似た感情を持っているのが窺えた


「そっか…一応聞くけど、ミラの足が治った後もジュード君はついていくの?」

「ミラが許してくれるなら、そうするつもり」


しっかりと肯定するジュードは、ミラが使命を果たすまでついていく様子だったが、ミクニは不安を持つ

揺るぎのないミラに羨慕するジュードは、彼女のようになりたいのだろう

それは悪い事ではない

けど、憧れや羨慕する相手がいなくなった時、人は1人で立つ事が困難になってしまう


(…そうならなければいいけど)


「ジュード君が決めたことならいいけど、ミラみたいに無茶はしないようにね。というか、ミラが無茶をしないように見てあげて」

「ミクニの方こそ、無茶はしないでね」


(確かに私がミラのことを言える立場じゃないか)


心配をすれば逆に心配をされてしまい、ミクニは苦笑いを浮かべながらも頷く

そのように二人だけの会話をしていれば、馬に乗っていたミラが声を掛けてきた


「先程から二人で何を話している?」

「ご両親に二人の関係を許してもらえるといいねって言ってたの」

「っ―――ちょっとミクニ!変なことを言わないでよ!」

「冗談だよ」

「ふむ。ミクニは冗談が好きなのだな」

「特にジュード君って弟みたいで可愛い反応をしてくれるしね」


ほぼ同じ身長であるジュードの頭を撫でてあげれば、彼は頬を赤らめてすぐに慌てる

その反応にミクニを含めた皆が小さく笑みを漏らした


「足が治るといいね。ミラ」

「ああ」

「本当は、私が港まで同行したらいいんだろうけど…」

「いや。君にはクレインの事がある。それに、彼のことで体の調子がよくないのだろう。私の事は気にするな」


ミクニに向けてそう言ったミラはそれ以上の言葉を交わすことなく、一時だけミクニと視線を交わすとドロッセルへと視線を移した

ミラの視線からミクニは、彼女が口にしなかった事を察する

ミラは、昨日の会話からミクニはクルスニクの槍の元へと向かうことと、二人が同じ目的なのは知っただろう

けれど、ミクニとミラはお互いに共に行動することを口にすることはなかった

ミラの危うい行動とマクスウェルということが気がかりではあったが、総合的に考えて今は1人で行動するべきだとミクニは考えていた

ミラもまた今はミクニと共にいても意味がないと判断したのだろう


「―――それじゃ、行くね。皆、ありがとう」

「うん。機会があれば、また会おう」

「そうだな。ミクニとはいずれ会うような気がする」

「ミラもそう思うなら、きっと会うだろうね」


再会の形はどのようなものにしろ、二人は目的故に出会う

お互いそれを感じながら、それぞれの意志を瞳で交わし、別れることとなった


“行ってしまったか”

“気がかり?”

“あのミラという者が、本当にマクスウェルかが私には不思議でならない。確かに彼女から感じていた違和感は、精霊だったためかもしれないが”


ミラとジュードが去り、シャール家へと向かおうとするとエルシフルが声を出す

ミラがマクスウェルと知ってからエルシフルは悩んでいた


“この世界の大精霊がどうなのかはわからないからね…確かにエルの言うとおり、私も不思議だけど”

“…それにこれは、テルカ・リュミレースの事と関わることだしな”

“他の大精霊にも会えればいいんだけど…ミラの話では四大はクルスニクの槍に捉えられているし”


ミラの言葉を信じはしたが、どうしてもマクスウェルという事実がしっくりこなかった

単なる気のせいかもしれないが、とりあえず今は他の大精霊に会うべきだとミクニは考える

元々クルスニクの槍は向かう予定だったのだから好都合ではあったのだから支障はない


“だが、捉えられているとなると、単に破壊するわけにはいかない”


エルシフルの言葉の通り、破壊するにはいかなくなった

破壊をすれば、捉えられている四大はもちろん、他に捉えられている微精霊にまで手を掛けてしまうことになるかもしれない


“うん…それなんだけど、峡谷の黒匣を調べれば少しは仕組みとかがわかるかもしれない”

“だが、この世界の機械をミクニは扱えるのかい?”

“やってみなければわからないけど…行ってみる価値はあるよ”


元の世界のように、この世界の物質が情報を展開出来るか試した事がなかったが、しないよりはマシだと判断する

出来なければ、時間はかなりかかるだろうが感覚でやればいい


“それに、元々一度は調べるつもりだったしね。あそこで拾った魔核に似たこの石のこととかもあるし…”


懐にしまってあった輝きのない石を眺めていたミクニだったが、前を歩いていたエリーゼたちの呼ぶ声で、屋敷へ戻る事に専念した




時が再びちるまで、それぞれの道を歩む



  |



top